WEDGE REPORT

2019年6月23日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

冒険の作法とゴキブリホテル

 私が子供のころの愛読書のひとつに『冒険王』(秋田書店)という月間漫画雑誌があった。だが今、冒険という言葉は、死言に等しい。ネットなどによる情報技術の発達も影響しているのかもしれない。ニーチェのいう末人が跋扈しているせいかもしれない。「彼らは世界のあらゆる出来事を知っている。そして限りなくあざける」(『ツァラトゥストラかく語りき』)。だがそれは本物の世界ではない。

 先日、フィリピンのマギンダナオ州とコタバト市に足を踏み入れる機会があった。この地を訪れるのは、援助関係者とフリーのジャーナリスト、一部政府要人ぐらい。外務省の海外安全情報サイトも危険度レベル3(訪問中止勧告)となっている。昨年は、未遂を含めて60を越える爆弾事件のあったのだからもっともとも言える。援助関係者が外出するときには、前後に軍の護衛車両がつく。

 けれども再考してみると、私がベネズエラで住んでいたのはレベル3地域、以前訪れた東部レバノンシリア国境地域は、レベル3か4である。

 知らない地やへき地はとかく危険とされるが、爆弾があろうが戦争があろうが、子供も老人も女性もみな普通の生活を営んでいる、あるいは営もうとしている。

 日本だって稀に起こる無差別殺人と、しばしば起こる自然災害を考慮すると、とても安全な国ではないが、我々はその地で普通に生活を営んでいる。

 前述の外務省の世界地図を見ると、アフリカ、中近東、東南アジア、南米の数々の地域が行かないほうがいいことになっている。つまり、見るな聞くなということでもある。誰もその地のことを伝えないと、欧米の報道やSNSの嘘か本当かわからない情報にしか接することができなくなってしまう。

紛争地への準備

ダバオのナイトマーケット

 今年の1月末に私はドウェルテ大統領の本拠であるミンダナオ島のダバオを訪れた。治安もよく、地元の食事も驚くほど美味く、素晴らしい土地であった。夜5時~早朝2時ころまで開いているナイトマーケットは、圧巻でもあった。数百の屋台が地元の新鮮な肉、魚介類、野菜、果物を安価に提供し、数千人が集まって来る。

 けれども、2016年9月2日、この夜間マーケットでも爆弾テロがあり、15名が殺され、70名強が負傷。夜は軍が装甲車まで出動させて、監視していた。

同上

 現地の治安当局者に「陸路、ミンダナオ自治区のマギンダナオ州に入りたい」といったところ次のような答えが返ってきた。

 「行って帰って来るだけで10時間はかかるし、検問所は暗くなると危ない。テロリストが潜んでいる。それに我々の管轄外だ」

 無理強いするわけにはいかない。マギンダナオ州のコタバト市では12月31日に爆弾テロがあり、2名死亡、34人が負傷している。また、1月20日、同市の判事の家に手榴弾2個が投げ込まれている。

 10年ほど前にはマギンダナオの大虐殺として世界を震撼させた事件もあった。地元のボス同士の政治上の抗争から、58人が殺害され、そのうち32人がジャーナリストだという。

日本に本格的なインテリジェンスは不可能な理由

 ミンダナオからの帰国後、コタバト市に長くいた援助関係者を探して、電話で状況を聞いてみると、以下の事情が判明した。

  • 現地に日本人はほとんどいない。 
  • 仕事以外は外に出ない。とりわけ夜は出歩かない。
  • 現場に向かうときは軍に前後をガードしてもらう。ルートは日々変える。
  • ホテルには軍の人間といっしょに泊まってもらう。
  • 高い建物がないので狙撃されることはない。近距離から撃つ。刃物を使うことは少ない。
  • ホテルにレストランがないと、外出できないので食事ができない。
  • 空港からエスコートをつけたほうがいい。

 海外で犠牲になるのは、援助関係者、プラント事業関係者、フリーのジャーナリストの順であろう。私はこの3者のいずれにもかかわっているし、いくつかの事件については内情を知る立場にもあった。

 一方PKOなどで海外に赴任する自衛隊には犠牲者が出ていない。政治的な理由から彼らに何かあれば、大騒ぎになるだろう。だから我々日本人は自衛隊が被害にあわないように配慮する必要がある。

 また、大手マスコミの記者もそうだ。ベトナム戦争のころは、自社の記者が、命を張っていたが、今大手の新聞やテレビ局の社員が紛争地に行くことはまずない。なにかあればライバルのマスコミから叩かれるし、犠牲になれば慰労金も大変な額だろう。危険地は命の安いフリーランス頼りだ。

 さらに大使館職員も危険地には入れない。自身が退避を勧告しているのだ。人質にでもなれば、それこそマスコミの餌食であるし、将来の出世もおぼつかない。その意味で日本には本格的なインテリジェンスの活動は期待できない。

 例外は援助の専門家だろう。今年の2月以降、コタバト市を拠点とするミンダナオ和平国際監視団(International Monitoring Team:IMT)に彼らを再派遣することになる。

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