中国の最重要課題「農と食」を読み解く

2019年6月26日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

 中国共産党中央が毎年年初に出す最初の文書は「1号文件(文書)」と呼ばれる。その年の特に重要な政策決定を示すものだ。この1号文件のテーマを長らく独占しているのが、農業問題だ。2004年以来16年連続で農業あるいは農村の課題解決が取り上げられている。国土の5割強を占める農地、9億人を超す農民にどう対処するかは、中国共産党にとって焦眉の、かつ厄介極まりない問題なのだ。中国の農と食の今を、シリーズで紹介する。

(Devrimb/gettyimages)

前近代と次世代が交錯する世界

 中国農業と聞いて何を思い浮かべるだろう。パッと思いつくのは、スーパーの棚に置かれた国産より格段に安い中国産野菜、週刊誌をはじめとする中国毒食品の報道だろうか。一人っ子政策の施行中に生まれた大量の無戸籍者、3億人近い「農民工」と呼ばれる農村出身の出稼ぎ労働者。農村戸籍を持つと、有名大学の受験で不利になり、都市で生活する際に公共サービスが受けられないといった数々の差別的な制約があることをご存知の方もいるだろう。

現代と前近代が交錯する山西省の農村。手前ではヤギが放し飼いされていた(写真はいずれも筆者撮影)

 2010~13年を北京で過ごし、華北地方をしばしば旅した筆者にとっては、市場で売られている驚くほど安い農産物、見渡す限りどこまも広がるトウモロコシ畑とレンガ積みの簡素な家、都市住民とは話す言葉も生活様式も全く違う農民が、まず思い浮かぶ。そして、農民工として北京に出稼ぎに来ているウェイターや清掃員たちと、彼らなしでは生活できないにもかかわらず、その存在を疎ましく思っている北京市民たち。

 帰国後、こうした非常に泥臭い中国農業のイメージとは真逆の情報に、接するようになった。有機農産物の流行、自律飛行するドローンが広大な面積で農薬や肥料の散布をしていること、オランダ式の最新鋭ハウスの建設……。場所によっては日本の技術をはるかに凌ぐ精密農業が行われている。コメはF1(雑種第一代)が多く、収量で日本は大きく水をあけられている。国連のFAO(国連食糧農業機関)に膨大な予算と人員を送っていて、日本はとても対抗できない等々。

山西省のトウモロコシの単作地帯

 自分の見聞きしてきた前近代的な農業と、およそ整合性のとれない情報が次々と入ってくる。赤貧洗うがごとき地域がある一方で、先端的な取り組みは、信じられない勢いとスピードで突き進められる。日本で「次世代型」と呼ばれる技術が、すでに実用化されて久しい例もある。「中国はこうだ」という思い込みに縛られていると、実像から遠く離れた誤った認識を持ちかねない。

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