WEDGE REPORT

2019年5月24日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

 「技術で勝って事業で負ける」。日本のモノづくりはこう言われて久しい。原因の一つとされるのが、国際標準への乗り遅れだ。農業分野の国際標準化の促進を目指す組織に米国発祥の“AgGateway(アグゲートウェイ)”がある。

 

 農業関連メーカーや流通業者らが情報交換のために作ったプラットフォームで、世界的に組織を拡大しており、そのアジア版“AgGateway Asia”の設立イベントが4月半ばに都内で開かれた。現状の日本農業の「ガラパゴス化」への懸念と、国際標準の形成に日本が積極的に加わることへの期待の声が聞かれたので、紹介したい。

将来への技術的負債を作っていないか

会場の様子

 「標準化への対応は、後からでもいいのではと考える方もいるでしょう。ですが、早くした方がメーカーにとっても楽です。後からほかのメーカーを追いかけるとなったとき、自分たちがそれまで作り上げたものが、技術的負債になるのです」

 AgGateway Asiaの会長として登壇した濱田安之さんは、60人を前にこう語った。念頭に置いているのは、農機メーカーや、スマート農業に関連する会社、農業の経営管理などの情報ツールを提供する会社など。こうした会社の多くは、日本国内をメインターゲットに製品を作っている。国内市場が縮小する中、標準化に対応できなければ危機に直面しかねないと、濱田さんは懸念を強めている。

 たとえば、2018年は国内の大手農機メーカー各社が自動運転・作業ができる「ロボットトラクタ」を次々と発売し、「ロボット農業元年」と呼ばれた。しかし、濱田さんはこうした農機が活躍する時代は長く続かないと予測する。「まっさらなトラクターに(後から)頭脳を付けるだけで、それができるようになる」からだ。

 根拠は、トラクタや作業機(トラクタでけん引するアタッチメント)の接続互換性のグローバルスタンダードとして欧米で普及している「ISOBUS(イソバス)」。もともと、トラクタと作業機のメーカーが違っても、互いに情報のやり取りができ、作動するようにとの目的で作られた。

 「これが標準化されるとどうなるか。まっさらなトラクター、でもコマンド(システムへの指示)さえ送れば、何でも言うことを聞くトラクターというのが出てきます」(濱田さん)

 つまり、ISOBUSに対応していれば、トラクタ自体が高性能でなくても、ISOBUS対応のコントローラーから指示を出せば、ロボットトラクタと同様の作業ができるようになり得る。ロボットとして運転・作業する上での安全性の担保がまだできていないけれども、この部分もこれからクリアしようとしているという。

性能だけ上げていないか

 技術的に優れていても、ユーザーから選ばれるとは限らない。濱田さん自身、このことを身をもって経験した。濱田さんは、農業機械版のカーナビゲーションシステムともいうべきガイダンスシステム「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」の開発・販売をする農業ベンチャー農業情報設計社のCEOだ。農機が走るべき軌道をスマートフォンやタブレットなどの画面上に表示し、薬剤散布といった作業のムラを減らす。

 過去に高性能のナビゲーションシステムを作って、農家からの使用後の反応も上々だったのに、最終的に農家が選んだのは性能の低い海外製品だったという苦い体験をしている。理由は、海外製の方がサービスが長く続くだろうし、ナビゲーションシステムだけで終わらず、次の段階の自動操舵までできる拡張性が期待できると農家が判断したからだった。

 頑張って性能だけ上げようとしていないか、自社製品の良さが農家にとっても良いものになっているのか……。濱田さんが会場に投げかけた問いは、国内メーカーの痛いところを突いているのではないか。

 スマート農業関連では、さまざまな企業が多種多様な農機や栽培や経営の管理のためのアプリ、システムを開発・販売している。これまではどちらかというと、ユーザーの囲い込みを重視していたところがあった。そのため、情報の互換性や相互の連携に欠けていることが問題視されている。

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