安保激変

2018年10月24日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

ロシアを訪れているボルトン米大統領補佐官(写真:AP/アフロ)

 前回(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14297)は、 INF条約が締結された背景や、ロシアによる条約違反、米国における対抗措置の検討と条約離脱派・維持派それぞれの主張を説明した。そこで述べたとおり、INF条約自体は米露二国間で締結されている条約であり、ともすれば核大国同士が議論すべき第三者的問題として扱われがちである。また条約が締結された歴史的経緯に関連して、ロシア(ソ連)と地続きになっている欧州の軍事情勢と異なり、地理的に離れている日本は蚊帳の外に置かれてしまいかねない側面もある。

INF条約交渉時、日本が果たした重要な役割

 しかし、INF条約はその交渉時に日本が重要な役割を果たした当事者性の高い問題であるということは、どれだけ知られているだろうか。この経緯は、ロシアのINFが今日のアジアに与える影響を考える際にも若干関係するので、そのさわりを紹介しておきたい。

 1980年代の米ソ軍備管理交渉は、最終的に両者のINFを全廃する、いわゆる「ゼロオプション」で決着したが、全廃合意に至るまでには複数のオプションが議論されており、その中には双方が欧州に配備されたINFだけを撤去する=ソ連はSS-20を欧州に届かないウラル山脈以東に移動させる、といった「欧州限定ゼロオプション」などが提案されていた。

 当初から米国は、配備地域にかかわらず双方がINFを全廃することを追求していたものの、ソ連は現状維持を主張して交渉を中断するなどしたため、米側では欧州限定ゼロオプションや、SS-20の大幅削減とパーシングⅡの配備中止を引き替えとする妥協案に一定の支持が集まりかけたが、レーガン大統領自身がゼロオプションにこだわり続けた。

 レーガン大統領の懸念は、「たとえソ連のSS-20をウラル以西(欧州正面)から撤去できても、ウラル山脈以東(極東正面)に残されたSS-20は、日本や韓国、中国に脅威を与え続け、なおかつSS-20の射程(5000km超)と輸送可能力をもってすれば、ウラル山脈以東に配備されていても、すぐに欧州の脅威に変わりうる」というものであった。こうしたレーガン大統領のこだわりは、中曽根総理との良好な「ロン・ヤス関係」を軸に、当時の外務省幹部らが日本側の懸念を米国と欧州双方に対して打ち込むことに尽力した成果であった(この経緯は、佐藤行雄元国連大使の著書『差し掛けられた傘』[時事通信出版局、2017]で詳述されている)。

 こうした条約交渉時の経緯だけでなく、現在の北東アジアではロシア以外に、中国や北朝鮮、韓国までもが多くの中距離ミサイルを保有しており、INF条約をめぐる問題は、日本を取り巻く安全保障環境を議論する上で無視できない複雑な問題となっている。ここでは、INF条約の破棄が日本の安全保障にいかなる波及的影響を与えるかを様々な論点から検討する。

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