安保激変

2018年9月28日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

(写真:代表撮影/Pyeongyang Press Corps/Lee Jae-Won/アフロ)

 9月19日、韓国の文在寅大統領と、北朝鮮の金正恩委員長との間で3回目となる南北首脳会談が平壌で行われ、その成果をまとめた「平壌共同宣言」が発表された。共同宣言は、南北関係の改善に関する項目が多くを占めているが、非核化に関連する(と彼らが主張する)ものとして、2つの項目が言及されている。

 第一は、東倉里のミサイルエンジン試験場と発射台を、関係国の専門家の監視下で、恒久的に廃棄するとしたこと。

 第二は、米側が6月12日の米朝共同声明の精神に基づき、相応の措置をとれば、寧辺にある核施設の恒久的廃棄などの追加措置を講じる用意がある、というものである。

 以下では、これらが北朝鮮の核・ミサイル能力との関係でどのような意味を持つのか、最近明らかになった情報分析と合わせて技術的な評価をまとめておきたい。

 結論から言えば、これらのいずれか、あるいは両方の措置をとったところで、北朝鮮の核・ミサイル能力には影響がないどころか、更なる向上を続けることもでき、非核化には程遠い措置ということだ。

東倉里のミサイルエンジン試験場は
優先的に廃棄しても構わない?

 平壌共同宣言で言及された東倉里のミサイルエンジン試験場は、既に6月の米朝首脳会談の時点で金委員長が廃棄を打診しており、7月20日頃から一部の解体が始まったことが衛星画像で確認されていた。

 同エンジン試験場は、北朝鮮のミサイル開発に大きな役割を果たしてきた。ここで行われた数々の試験の中でも最も重要とされるのが、2017年3月18日に金委員長立ち会いの下で行われた、大出力液体燃料ロケットエンジンの噴射試験である。このとき試験されたのは、従来北朝鮮が保有していたものとは異なる、RD-250系列と言われるウクライナ由来のエンジン技術であった。この試験で実証された技術を元に開発されたのが、「火星12(IRBM)」、「火星14(ICBM)」、「火星15(ICBM)」である。

 2017年に相次いで発射実験が行われた火星シリーズは、上記試験で使用されたエンジン、またはその改良型を搭載することにより、北朝鮮が元々保有していたスカッド・ノドン系列のミサイルから射程が大幅に延伸されている。中でも火星15は、液体燃料ICBMとしての技術的な完成度が極めて高い。北朝鮮から北米大陸の南端までは約1万2000kmの距離があるが、火星15の推定射程は1万3000kmもあり、核弾頭と弾頭を保護するカバー(シュラウド)を合わせて1トン程度のペイロードを搭載しても、ワシントンを打撃するには十分な射程を有していると考えられる。

 つまり、北朝鮮は液体燃料エンジンの推力や燃料効率をこれ以上改善させる必要はなく、地上で追加的な実験を行う理由は見当たらない。

 このことを踏まえれば、東倉里のエンジン試験場は2017年3月に主要な液体燃料エンジンの実験を終え、その後火星シリーズの実用化に成功した時点で不要なものであり、北朝鮮としては、対米交渉を行う上で優先的に廃棄しても構わないものと事前に判断していた可能性が高いと言えるだろう。

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