安保激変

2018年7月17日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

 4月27日の南北首脳会談、そして6月12日の米朝首脳会談を受け、朝鮮半島をめぐる安全保障情勢は大きな変動の最中にある。トランプ大統領、金正恩委員長、文在寅大統領といういずれも個性の強い政治的指導力の下で行われる外交を前に、「日本は蚊帳の外にある」との議論も聞かれた。確かに問題の性質によっては、日本がその解決に主体的に関与できる余地が相対的に小さい場合があることも事実であろう。例えば、北朝鮮が核・ミサイルの放棄と引き替えに体制保証を求めるのであれば、その体制を軍事的に脅かす能力が無い日本がそれを保証することはできない。これは朝鮮戦争の終結を含む南北和平プロセスについても同様のことが言える。

(paulbein/iStock/Getty Images Plus)

 しかし、日本が問題解決に関与できる余地の大きさと、その問題が日本に与える影響の大きさはイコールではない。言うまでもなく、北朝鮮の核・ミサイル能力は、日本の安全保障にとって明白かつ重大な脅威である。したがって、日本が関与できる余地とは別に、問題の趨勢がもたらす影響について客観的な分析を行うと同時に、日本にとっての最悪のシナリオに向かうことを避けるため、例え微力であっても、あらゆる手段を講じてその防止に努める必要がある。

 したがって今やっておくべきことは、日本にとって好ましいシナリオ・好ましくないシナリオとはどういったものかを明確にし、それぞれのシナリオに進むことによって生じるリスクの性質を特定しておくことであろう。

 そこで本稿では、朝鮮半島を中心とした日本の安全保障環境に関するいくつかのシナリオ分析を行ってみる。具体的には、北朝鮮の核・ミサイル能力や在韓米軍を含む極東の米軍プレゼンスといった「能力」に影響を与える要因を列挙した上で、それが日本の安全保障に対してどのように作用するかを分析する。

要因(1)北朝鮮の核・ミサイル能力はいつ、どの程度低減されるのか?

 朝鮮半島をめぐる安全保障問題のうち、日本が最も注視すべき直接の脅威は、言うまでもなく北朝鮮の核兵器とその運搬手段である弾道ミサイル能力である。これらの脅威を低減させる取り組みとして、日本政府は米国と韓国、それに中国を巻き込んだ経済・軍事双方による「最大限の圧力」をかけ続けるアプローチを追求してきた。

 これまで日本は「対話」によるアプローチを検討してこなかったとの指摘があるが、そうした批判は適切ではない。少なくとも2017年の時点では、日米韓三カ国は、軍事オプションによる強制武装解除を行わないのであれば、いずれかの時点で北朝鮮との対話が必要であることには一致していた。問題は、圧力から対話に移行するタイミングをめぐって、日米韓にズレが生じたことにある。

 日米の外務・防衛当局は、圧力から対話に移行するタイミングをあくまでこちらが主導的に設定すること=すなわち、最大限の圧力を限界までかけきった段階で、北朝鮮が自ら核・ミサイル能力を手放すことを条件に、対話交渉に歩み出てくるまで待つことを重視していた。北朝鮮が核・ミサイルの実験を繰り返す中でこちら側から対話を切り出せば、彼らに「軍事力の向上による脅しが効いた」との誤った認識を与えるとの判断があったことは想像に難くない。

 そのため日本としては、————圧力によって我が方が優位な立場から北朝鮮の核能力を自己申告させ、日米韓の情報評価と照らし合わせながら非核化に向けたロードマップを作成し、妨害・遅延工作が入り込む余地がないよう注意しつつ、可能な限り速やかに開発済み核弾頭の相当数を確保、その後申告漏れがないか秘匿されている弾道ミサイルの製造施設や核関連施設の査察・検証を続けていき、北朝鮮が核・ミサイルを使用する物理的能力を低減させていく————大まかにはこういった筋書きを想定していたはずだ。

 しかし、日米韓が歩調を合わせて圧力をかけ続けるというこのアプローチは、米朝軍事衝突の回避を最優先とする文政権の対北融和・米朝仲介外交と、それに乗じて米朝首脳会談に踏み切ったトランプ大統領の前のめりな判断によって、大きく足並みを崩すこととなった。

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