韓国の「読み方」

2018年7月9日

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伊藤弘太郎 (いとう・こうたろう)

キヤノングローバル戦略研究所研究員

2001年中央大学総合政策学部卒業、04年同大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、17年同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。衆議院議員事務所、公益財団法人日本国際交流センター等での勤務を経て、15年1月より内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、17年7月より現職。専門は韓国の外交安全保障政策。

今年4月に行なわれた米韓合同軍事演習(写真:ロイター/アフロ)

 先月12日に行われた史上初の米朝首脳会談では、共同文書に完全・検証可能・不可逆的な非核化を意味する「CVID」の文言が盛り込まれなかったことが批判された。更に、トランプ大統領自身が記者会見の場で、「今夏からの米韓合同軍事演習を中止する」と表明したことも「一方的な譲歩でないか」と大きな波紋を呼んだ。首脳会談前、多くの専門家は対北譲歩策の一つとして「B-1B爆撃機などの戦略兵器の展開中止」までは予測しており、米韓合同軍事演習に関しても、あくまで「非核化の最終段階で演習規模縮小などを段階的に行っていくだろう」といった観測が有力だった。ところが、トランプ大統領の発言を受けて行われた米韓国防当局による協議を経て、6月18日、今夏の合同軍事演習の中止が正式に発表された。翌19日には金正恩国務委員長の3度目となる中国訪問が行われた。同委員長は「米韓合同軍事演習中止」という手土産を持って、習近平国家主席との会談に臨むことができたのである。

多様な危機を想定してきた米韓合同軍事演習

 米韓合同軍事演習は二種類ある。北朝鮮との全面戦あるいは局地戦を想定した米韓連合軍の作戦計画に基づき両軍の陸海空・海兵隊の4軍によって行われる大規模なものと、米韓の同じ軍種間で行われる小・中規模な演習・訓練の二つだ。前者の大規模演習には、毎年3月に行われるコンピュータによる指揮所演習「キー・リゾルブ(略称:KR)」、毎年3月から4月にかけて行われる野外機動演習の「フォール・イーグル(FE・韓国名はドクスリ)」に加え、毎年8月中旬から行われる「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン(UFG)」の3つがある。北朝鮮が事あるごとに「北侵戦争騒動」と非難し、中止を求めてきたのがこれら3つの演習なのだ。一方、後者の小・中規模の訓練には、5月に米韓両空軍が実施した「マックスサンダー」等、米韓両軍の同じ軍種間で行われる定期訓練が主体である。

 当初、北朝鮮の非核化を推進するために中止となるのは、前者3つの大規模演習だと予想されていた。しかし、今回はUFGに加えて、米韓海兵隊による合同演習(KMEP: Korean Marine Exchange Program)も中止リストに加えられた。また、来春のKR&FEは、「北の非核化の進展状況を見ながら実施の可否を判断する」とし、「必要に応じていつでも再開できる体制を整える」ものとされた。

 今回中止が決まったUFG演習は、韓国政府の国内危機管理担当官庁である行政自治部主管の軍官民による共同演習(乙支演習)と、米韓の軍事指揮所演習(フリーダム・ガーディアン演習)の二つで構成される。後者は、北朝鮮による局地挑発に対する韓国軍単独または米韓共同の対応能力の向上を目指し、全面戦における米韓連合軍の作戦計画に基づき、コンピュータによるシミュレーションを使用して行われる。

 通常韓国大統領は乙支演習初日に、青瓦台・地下バンカーにおいて国家安全保障会議(NSC)を招集し、関係閣僚や大統領府スタッフは同会議に出席して、緊急事態対応の手順を各自確認することになっている。ここでいう緊急事態には、北による軍事挑発にとどまらず、韓国国内で発生した重大な自然災害なども含まれる。乙支演習の目的には軍事以外の多様な危機に米軍と合同で対処する能力を訓練することも含まれるのだ。

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