韓国の「読み方」

2018年7月9日

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伊藤弘太郎 (いとう・こうたろう)

キヤノングローバル戦略研究所研究員

2001年中央大学総合政策学部卒業、04年同大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、17年同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。衆議院議員事務所、公益財団法人日本国際交流センター等での勤務を経て、15年1月より内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、17年7月より現職。専門は韓国の外交安全保障政策。

韓国が在韓米軍撤退を求めるのは合理的ではないが……

 先月29日に京畿道(キョンギド)・平澤(ピョンテク)市にある在韓米軍司令部の開所式が行われ、これによりソウル中心部の龍山(ヨンサン)基地からキャンプ・ハンプフリーへの移転が正式に完了した。多くの米軍関係者とその家族はすでに新司令部に引越を済ませ新生活を始めている。同キャンプへの司令部移転は2016年に開始され、本年には移転作業が完了、2020年までには在韓米軍の家族や軍属4万人以上が居住するようになるとみられる。同移転計画にはすでに1兆5000億ウォンの韓国政府資金が投じられたとも報じられた。

 筆者は先月12日の米朝首脳会談後に出張でソウルを訪れたが、現地で驚いたことがある。TVニュース番組の間に「平澤米軍基地正門前徒歩5分の優良物件」、「今後安定的な収入が見込めます」など、在韓米軍関係者居住を見込んだ投資用マンションのCMが頻繁に流れていたのだ。すでに、平澤基地のゲート周辺には米軍関係者向けの立派な賃貸一戸建て住宅が並ぶ「レンタルハウス村」も出現し、基地周辺の土地価格は他の地域に比べて大きく上昇しているという。それだけではない。移転元の南北軍事境界線に近い京畿道では、北部地域に残る米軍基地の返還が、南北融和の一環として促進されるのではないかとの期待が高まっているそうだ。総人口の半分がソウルを中心とする首都圏地域に集中する韓国で米軍基地跡地は、将来の大規模都市開発を可能とする残り少ない貴重な土地なのである。

 盧武鉉政権時代に計画された米軍基地・司令部の移転は、激しい反対運動を乗り越え、地元の理解を得て、ようやくこの日を迎えたという経緯がある。日本では、「文在寅大統領が進歩系で親北だから、在韓米軍撤退を求めている」といった指摘も散見されるが、韓国政府が在韓米軍撤退を求めるという見方は現段階では合理的ではない。新たな米軍基地により地域経済が発展へ向けて動き出しただけでなく、軍事的に見ても、韓国独自の国防力建設が道半ばだからだ。韓国政府の懸念は、むしろ、トランプ大統領がこうした韓国の足元を見ながら、在韓米軍駐留費負担増や戦略兵器派遣に伴う費用負担要求などでディール(取引)を仕掛けてくることではないだろうか。

 米朝首脳会談の翌日に行われた韓国の地方選挙では与党が大勝し、野党の保守政党は指導部が総退陣した。野党側の新指導部選びは党内の主導権争いによってまとまらず、その政治的影響力の低下は避けられない。1、2年前なら、米韓合同軍事演習の中止など全く考えられない状況にあったが、今や国民世論はこれを許容するようになった。このようにして、今後在韓米軍の縮小や合同演習の中止などが、なし崩し的かつ、米国単独または米韓間だけで決まっていくようになれば、我が国の安全保障に多大な悪影響をもたらすことは確実だろう。一方で、北の非核化措置に向けた動きに重大な疑義が生じれば、米朝関係が一気に昨年のような軍事的緊張状態に戻る可能性も排除できない。我が国にとっては、北朝鮮の非核化の進展度合いとは無関係に、当面座視できない状況が続くだろう。我が国が、米韓同盟の急激な構造変化にも備え、安全保障戦略の再構築を迫られる時が近いうちに来るかもしれない。

  
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