韓国の「読み方」

2018年7月9日

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伊藤弘太郎 (いとう・こうたろう)

キヤノングローバル戦略研究所研究員

2001年中央大学総合政策学部卒業、04年同大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、17年同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。衆議院議員事務所、公益財団法人日本国際交流センター等での勤務を経て、15年1月より内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、17年7月より現職。専門は韓国の外交安全保障政策。

北朝鮮にとっては量・質ともに驚異

 米韓合同軍事演習の効果は、米韓連合戦力の連携強化だけでなく、在韓米軍以外の米インド太平洋軍隷下の部隊、特に在沖海兵隊を中心にした在日米軍部隊の練度向上にも重要な役割を果たしている。近年の例を見ても、岩国基地所属のF-35Bや普天間基地所属のオスプレイのような最新装備品が実戦配備後に米韓合同演習に参加している。陸海空・海兵隊の四軍を統合戦力として訓練できる絶好の機会だからだ。

 韓国軍自身も演習による大きなメリットを享受している。6月14日付朝鮮日報では元韓国軍将官の「連合訓練は韓米戦闘体制を固めることはもちろん、我々がとても安い授業料を出して、世界最強の米軍から戦争ノウハウを学ぶ機会1」というコメントが報じられた。この言葉が端的に示すように、統合軍事演習は韓国軍四軍の戦力強化に大きな役割を果たしている。

 また、最近の米韓合同軍事演習の特徴としては、戦略兵器である米空軍のB-1B爆撃機や海軍の原子力潜水艦が頻繁に参加するだけでなく、米韓両軍の特殊作戦部隊による合同訓練の様子を公に「見せる」ようになったことが挙げられる。昨年まで米韓両軍は「北の指導部除去」を高らかに掲げており、昨年春のKR&FEには過去最大規模の米特殊戦力が参加したとされる。北朝鮮にとっては、米韓合同軍事演習のために圧倒的な米軍戦力が朝鮮半島に集結するという「量的な脅威」だけでなく、米軍戦力の種類が多様化したことで「質的な脅威」も増すという、より深刻な状況になりつつあったのだ。

対中抑止の意味合いも
日本への影響は?

 米韓連合戦力と韓国軍の能力向上が日本の安全保障に貢献してきたことは紛れもない事実である。一方、中国から見れば、対北朝鮮の圧力強化策の一環として行われる米韓、日米、日米韓による連携の強化は、脅威以外の何物でもない。

 振り返れば、昨年5月以降、グアムから米空軍B-1B爆撃機が朝鮮半島に頻繁に飛来し、その都度、航空自衛隊と韓国空軍の戦闘機と共にそれぞれの防空識別圏内を編隊飛行した。日本では報道されていないが、昨年のUFG演習開始直前の8月18日、米国防衛産業大手のロッキード・マーチン社は、B-1B爆撃機からの新型長距離射程空対艦ミサイル (LRASM)発射に初めて成功したとする実験映像を自社ホームページ上で公開している2。同ミサイルは今年からB1-Bに、来年からはFA-18E/Fにそれぞれ搭載される予定であり、こうした映像が米国に対抗し海軍力を増強しつつある中国を刺激したことは確実だろう。

 このように米韓合同軍事演習は対中抑止力としても機能していたのであり、同演習の突然の中止は、東アジア地域の安全保障環境に大きな変化をもたらす可能性があるだろう。ベル元在韓米軍司令官は「米韓合同軍事演習中止後、6〜9カ月以内に演習を再開しなければ、司令官を含めた軍事力が萎縮する(atrophy)」と発言している3。また、今夏在韓米軍司令官が、ブルックス陸軍大将から、米陸軍総軍司令官のエイブラムス陸軍大将に交代することが内定したとも報じられている。エイブラムス大将はこれまで中東地域を中心に作戦指揮を執って来たが、仮に同大将が今年夏在韓米軍司令官に就任しても、通常在韓米軍幹部を含む在韓米軍首脳部が1〜2年で配置転換されることを考慮すれば、最悪の場合、今後半年以上韓国との大規模統合軍事演習が行われない可能性もある。その場合には、米韓連合戦力の有事における即応性や米インド太平洋軍隷下の部隊に影響が出ることも避けられないかもしれない。

 韓国軍はUFG演習の中止という穴を埋めようとするかのように、5月から延期していた韓国軍単独の「太極演習」を8月中旬に、通常よりも1週間長く行うとされる4。これについては戦時作戦統制権返還を見据えた韓国軍独自の能力強化を図る動きとの分析もある。米韓合同軍事演習の中止は、単に北朝鮮の非核化を巡る動きの一環ではない。もし、こうした動きが米韓同盟の質的変化の序章だとすれば、我が国にとって無視できない問題が顕在化することもあり得るだろう。
 

1:ユ・ヨンウォン「【萬物相】韓・米連合訓練」『朝鮮日報(韓国語版)』2018年6月14日
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2018/06/13/2018061302777.html
2:“LRASM TACTICAL CONFIGURATION TAKES FIRST FLIGHT FROM USAF B-1B Flight Test Marks the First Tactical LRASM Success”ロッキード・マーチン社、2017年8月18日
https://news.lockheedmartin.com/2017-august-18-LRASM-Tactical-Configuration-Takes-First-Flight-from-USAF-B-1B
3:VOA Korea、2018年6月21日
https://www.voakorea.com/a/4447652.html
4:『アジア経済』2018年7月4日
http://www.asiae.co.kr/news/view.htm?idxno=2018070409184039955

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