安保激変

2018年7月17日

»著者プロフィール
著者
閉じる

村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

戦時作戦統制権返還後、考えられる米韓連合体制

 確かに韓国軍は、この10年のうちに射程800kmの短距離弾道ミサイル(SRBM)「玄武2」や射程1500kmを越える巡航ミサイル「玄武3」を開発・配備するなどして、その攻撃能力の改善に努めてきた。しかし、独自のミサイル防衛や迅速な攻撃能力を支える情報・監視・偵察(ISR)能力は未だ発展途上であること、北朝鮮軍も韓国軍の航空基地・ミサイル配備拠点などを射程に収める300mm多連装ロケット砲「KN-09」等の新兵器を開発・配備しはじめたこと、それに加え核と弾道ミサイルの強化を続けていることなどを踏まえると、韓国軍の通常兵器による損害限定および懲罰能力には限界があり、その独自対処能力は万全とは言い難い。

 韓国軍の能力整備が発展途上にあることは米国も認識しており、2017年には、在韓米軍自ら高高度ミサイル防衛システム「THAAD」の展開・配備を前倒ししている。また韓国軍自身も、限られたリソースを比較的安価な陸軍に投資し役割を拡大しつつ、高額で演練に時間のかかる海空軍の運用については未だ米韓同盟で補完する必要があることは理解している。

 しかし韓国政府は、戦時作戦統制権の返還時期と核心的軍事能力は関連してはいるものの、完全に一致するものではない、と微妙な言い回しをしている。また返還条件に「安定的な安全保障環境の醸成」という要素が含まれていることを加味すると、ここにも政治的判断が介在し、米韓国防当局の反対を押し切る形で、返還が前倒しされる可能性も否定できない。事実、文政権は今年秋に予定されている米韓定例安保協議が50周年を迎えることを機に返還時期を確定させ、文大統領の任期のうちに返還を実現させたい意向とも言われている。

 確かに、自国での有事に当該国の軍隊が外国軍司令官の指揮下に入るという現在の指揮系統は(NATOのような特殊な集団防衛体制を例外とすれば)独立国として異質な状態であり、韓国がそれを正常な状態に戻したいと考えるのは自然である。しかし、北朝鮮の物理的能力が低減されていない状況下での指揮系統見直しは、米韓連合体制を不安定にしかねない。

 戦時作戦統制権の返還後の米韓連合体制ついては、(a)従来の米韓連合司令部を維持しつつも、米韓両司令官の立場を逆転させて、韓国軍の指揮下に在韓米軍を従える「韓国主導の連合型」、(b)韓国軍と米軍の司令部を並立させ、有事の際には共同運用調整所を通して連携を図る「米韓並立(日米同盟)型」、(c)在韓米軍を韓国軍の指揮下に入れるものの規模を縮小し、有事に増派されてくる部隊の指揮権限は国連軍司令部の下に集約して、米軍司令官の実質的な指揮権限を維持する「国連軍再活性化型」の3通りが考えられよう。基本的に、米軍が他国軍の指揮を受ける状況は考えにくいため、米側はbあるいはcの形式を求める可能性が高い。

 ただ後述するように、朝鮮戦争の法的な終結が先行すれば、国連軍司令部の存在意義を説明することは難しくなり、(c)の形式自体が実現困難になるだろうから、いずれの場合でも、これまで在韓米軍司令官に集約されていた指揮権限の分散は避けられない。これまでにも日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の締結や日米韓弾道ミサイル情報共有訓練など、日韓の政治的障害を理由に実務的な防衛協力が進まない場合には、「米国からの要請」をある種のレバレッジとして韓国国内の反日議論を抑え込ませる場面が多くあった。しかし戦時作戦統制権の返還を経て、米国の韓国に対するレバレッジが低下すれば、ただでさえ政治的に難しくなっている日韓・日米韓協力体制の強化が困難になることも予想され、ひいては朝鮮半島有事において自衛隊の出動が必要とされる場合の運用の幅を制約することになりかねないことが懸念される。

関連記事

新着記事

»もっと見る