世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年6月29日

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 2018年6月12日、シンガポールにおいて、歴史的な米朝首脳会談が開催された。数か月前には、米朝戦争の危機まで語られ、国交のない米国と北朝鮮の首脳が、世界のメディアを前に握手する姿は、45年以上前に米国と共産党中国が国交正常化を果たした時を思い出すかのように、まさに歴史的瞬間だった。確かに、政治的ショーにすぎないと言う見方もあるが、国際政治を大きく動かすには政治的ショーも必要であり、その「ショー」を繰り広げるにも、それなりの準備がいる。

(Poligrafistka/DigitalVision Vectors/BLOOMimage/Ian.CuiYi Moment)

 この史上初の米朝首脳会談を受けて、世界では、様々な評価、分析がなされた。例えば、米国の主要紙であるワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォールストリート・ジャーナル紙は、それぞれ6月12日付で社説を掲げ、今回の米朝首脳会談について、金正恩委員長の勝ちであり、トランプ大統領は譲歩しすぎではないか、との論評をした。6月12日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された論説では、ヴィクター・チャ元NSCアジア部長が、合意文書は不十分であるとしながらも、戦争を回避した重要な首脳会談であった点では評価できる、としている。また、6月15日付ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された6月12日に書かれたナラングMIT(マサチューセッツ工科大学)教授らの論評では、北朝鮮を核保有国として認めることが述べられている。

 このように、短期的に見ると、確かに北朝鮮の外交的勝利のように見えるが、本稿では、今回の米朝首脳会談を受けての状況を、(1)短期的、(2)中期的、(3)長期的と、より長いスパンで分析、思考してみたい。そうしてみると、長期的には主に3つのシナリオ(a‐c)が浮かび上がってくる。

(1)    短期的見方

 トランプ大統領は譲歩しすぎで金正恩の外交的勝利である。合意文書では、「朝鮮半島の完全な非核化」とされ、「北朝鮮の非核化」でもなければ、「完全かつ、検証可能で、不可逆的な非核化」(CVID)でもない。北朝鮮が求めていた文言通りである。「安全の保証」という言い方も、北朝鮮への攻撃をしないという米国の約束と、北朝鮮の金正恩体制を保証してあげるということになっているようだ。そして、朝鮮半島の休戦協定を平和条約にして米朝国交正常化を果たす。いずれも北朝鮮が求めていたことである。「完全な朝鮮半島の非核化」ということでは、北朝鮮の非核化を行う際に、韓国への米国の核の傘の保証も交渉の対象に入ってしまう。それもあってか、トランプ大統領は、中止する必要のない米韓合同軍事演習を中止し、在韓米軍の縮小・撤退まで言及した。

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