安保激変

2018年7月18日

»著者プロフィール
著者
閉じる

村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

 前回は、朝鮮半島を中心とする極東の安全保障情勢に影響を与えうる各種要因につき、主に「能力」の面に着目して現状分析を行った。第二回となる本稿では、これまでの分析に基に、今後の朝鮮半島をめぐる情勢がどのような方向に進む可能性があるか、複数のシナリオを検討し、その上で日本が取り組むべき課題について考えてみたい。

(Tero Vesalainen/iStock/Getty Images Plus)

シナリオ(1)非核化交渉の停滞、経済・軍事圧力路線への回帰

 第一は、継続的な米朝交渉を経ても北朝鮮が誠意ある非核化を実施する態度を見せなかった結果、米国が態度を再び硬化させ、米韓は定例合同軍事演習を再開。終戦宣言を含む平和プロセスも進まず、結果的に米韓同盟や在韓米軍も従来通り維持されるシナリオである。

 これは現時点での客観的な情勢判断を最も冷静に反映させ、各国が安全保障のリアリズムに沿って行動するシナリオであり、日本が元々描いていた「最大限の圧力」アプローチへの回帰とも言い換えられる。ここでは、一度弛緩した対北封じ込め網を締め直し、北朝鮮が自発的に核・ミサイルの放棄を余儀なくされるまで抑止態勢を立て直すことになる。だが、北朝鮮の非核化意思がいかに怪しいものであっても、政治基盤を盤石にした文政権が自発的に対決路線に振れることは考えにくい。したがって、このシナリオに至るドライビング・フォースとなるのは、米国に対する脅威が低減されていないことを理由に、米国内のトランプ支持層に否定的な見方が増え、トランプ大統領自身がより強硬な姿勢で北朝鮮から実質的な譲歩を勝ち取る必要性に迫られた場合であろう。

 このシナリオでは、実質的な核武装国となった北朝鮮と我慢比べをする以上、締め付けを解こうとする北朝鮮による武力攻勢(核・ミサイル実験の再開、限定的な軍事挑発等)回帰リスク、あるいは痺れを切らした米国による先制軍事行動のリスクがつきまとう。しかしそのリスクの大きさは、これ以外のシナリオによって生じるリスクを相対的に比較した上で評価する必要がある。

シナリオ(2)融和ムードの先行、米韓同盟の実質的な抑止態勢が形骸化

 第二は、北朝鮮がICBM用エンジン実験施設の破壊や一部施設への限定的な査察受け入れなど、実質的効果の薄いジェスチャーを示す一方で、水面下での様々な能力向上(高濃縮ウラン、各種ミサイル本体、移動発射台の増産、指揮統制能力の改善等)を継続。しかし、核やミサイルの表立った実験は行われず、それを理由に北朝鮮との融和ムードと形だけの米朝交渉が継続して、「フォール・イーグル」や「キー・リゾルブ」といった主要な米韓合同演習もしばらく中断され、朝鮮戦争の終結手続きが進展するシナリオである。

 このシナリオでは、米韓政治指導部と国防当局の相違が顕著になる中、在韓米軍の規模縮小は極少数の象徴的削減にとどめるも、演習中断の長期化によって米韓連合体制の即応性が徐々に失われ、事態対処能力が形骸化する。また、トランプ大統領の北朝鮮に対する警戒感が失われたことで、日韓両国では拡大抑止の信頼性が常に問われ続けることになる。

 現在、米国防省やインド太平洋軍・在韓米軍は、目立った訓練・演習ができない中でも即応性を維持すべく、可能な訓練を日本や東南アジアなど他の場所・国々と連携して代替することを検討しており、例えば米韓首脳会談直後にも、グアムから発進したB-52が東シナ海付近まで飛来するなどの活動を継続している。日本としては米国と予定されている各種演習(特に海空)を確実な実施に努めるとともに、日本海周辺での日米共同訓練や、西太平洋における日米韓のミサイル情報共有訓練を積極的に実施していくことが望まれる。ただし米韓合同演習は地域にプレゼンスを維持するだけでなく、米韓連合作戦の調整・演練を主たる目的としていること踏まえれば、在韓米軍の演習を個別に継続したり、他地域での訓練で代替することには限界があるだろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る