台湾総統選
国民党の微妙な勝利


富坂 聰 (とみさか・さとし)  ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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最後まで読みにくい選挙だった。

 2012年1月14日に投開票が行われた台湾総統選挙は、結局現職の馬英九の再選となった。この選挙結果を受けて、日本では早くも「中国と台湾の急接近が起きるのでは」、「中国が台湾を呑み込むのではないか」といった予測が飛び交い始めている。

“バランス”を重視する台湾人

 だが、ことはそう単純ではない。

 まず今回の選挙を、多くのメディアが伝えたように「台湾の人々が現政権の対中融和路線を選択した」と位置付けることができるか否かといった視点である。

 そもそも選挙は立法院(=議会)選挙と同時に行われたために台湾の有権者は各選挙区と比例、そして総統という3つの票を投じる仕組みになっていた。こうしたケースでは3つに均衡を持たせようとするのが自然な行動だが、とくにバランスを重視する台湾の人々の場合にはそうした動機が働くのは避けられない。そして台湾の人々が結果として3つの選択肢をどのように振り向けたのか、それを正確に知ることは選挙が終わった現在も難しいはずである。

 それでも敢えて結果を判断するとすれば、「一方で現状維持を肯定しながらも、現政権には不満も少なくない」と読めるのではないだろうか。

 理由はいくつかあるが、まず挙げておかなければならないのは、1期4年を経たばかりの総統であれば賞味期限に達しておらず現職有利であったと考えられる点だ。4年前の馬総統の勝利は、強い期待を背負って誕生した民進党の迷走と汚職体質にうんざりした台湾の人々の選択だったことを考慮すれば、その民進党が信頼を回復するには大きなハードルがあったというのもその根拠だ。しかも馬政権は昨年10.7%という中国をも上回る経済成長を遂げているのである。10%を超える経済成長を実現した現職が敗れる選挙があれば、それは驚くべき結果と言わざるを得ない。

国民党が講じたさまざまな措置

 国民党は政権与党である強みを生かして、投開票日を3月から前倒しして1月に設定している。これは中国大陸に暮らしている100万人とも言われる台商(台湾のビジネスマン)が春節の休みを利用して、台湾に帰り投票しやすくするための配慮だった。

 さらに国民党には、中国からの側面支援という追い風もあった。大きなものでは民進党の票田である台湾南部の農家に対して、農産物の関税を低くして果物や水産物を大量に購入したり、台湾旅行を奨励して観光で生計を立てる台湾の人々に対して、そのメリットを見せつけたのである。

 また小さなところでは、国内の台商が帰国して投票しやすい環境を整えるため、選挙期間中の中国人の台湾観光を制限したり、台湾人に対して台湾行の航空運賃を割引するなどの支援も行った。

 世界の風が国民党に追い風だったことは、中国だけでなく、アメリカも台湾海峡の不安定化を嫌って民進党に冷淡だったことだ。昨年9月に訪米した蔡英文主席に対して、会談した米政府高官が「中台関係を安定させる意思と能力があるか、疑問を感じる」といったコメントを出し、92年コンセンサスを見直そうとする民進党の対中政策の危うさにくぎを刺したのである。

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著者

富坂 聰(とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

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