チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年1月25日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 過去2回、チベットで相次ぐ僧侶らの焼身について書いた。今回、その続報、2012年明けから2週間の間に、さらに3人が焼身した件と周辺のことを書き上げて編集部へ原稿を送った直後、チベットからまたも衝撃的なニュースが飛び込んできた。

「元旦」の日に多数の死傷者が……

 本年1月23日は旧暦の元旦にあたる。中国では祝日となり、多くの人々が家族と楽しく旧正月を祝っているこの日に、同国内であるはずの東チベットでは、デモをしていた市民に向かって警察が発砲、1人もしくは3人が死亡したという。約30人が負傷したとの情報や、銃撃以外の理由も含め、デモに関連して6名が死亡したとの情報もある。

 事件が起きたのは、四川省の西北に位置するカムゼ・チベット自治州(四川省甘孜藏族自治州)のダンゴ(中国名:炉霍県)という町だ。よりによって、なぜ、正月元旦にデモを? と思う向きもあるだろうが、実はデモの理由はまさにその「正月」にある。

 ラジオ・フリー・アジア等の報道によると、住民らは「当局が、中国正月を祝うよう強要したことに反発していた」ことが背景にあるという。この点を、チベット亡命政府の日本の機関でもあるダライ・ラマ日本代表部事務所のラクパ・ツォコ代表に聞いた。

正月を祝う気持ちになれない理由

 「私たちチベット人は今、本土にいる者か、在外の亡命者かにかかわらず、到底、正月を祝う状況でも気分でもありません。日本でもチベット正月の行事は行いません。昨年、あれだけ多くの人が焼身し、命を落としましたからね。喪に服したいと思います。これは誰の指示でもなく、自然な気持ちによるところです」

 この心情は、同じ仏教の伝統を有する者としてよく理解できる。さらに、そもそもチベットには中国とは異なる独自の「正月」がある。「ロサル」と呼ばれるチベット正月は、今年は2月22日が元旦となる。そもそも祝う日が違うのだ。チベットの旧暦も、日本や中国の旧暦と同じく月の動きに則った太陰暦なのだが、正月は、隔年で中国正月から1カ月ほどずれる。少々わかりにくいのだが、1年おきに、今年は中国正月から1カ月遅れるが、来年はほぼ同時期、という繰り返しに正月が巡ってくるという。

ダライ・ラマ14世のいう「文化的虐殺」への憤り

 余談だが、筆者は中国本土で何度か、中国正月を、ダラムサラで1度だけチベット正月「ロサル」を経験したことがある。いうまでもなく、両者の祝い方はまったく異なる。チベット人の正月には、「デシー」というチベットの祭日につきものの、チベット人曰く、「日本お赤飯のような」特別な米飯がふるまわれる。当然、仏への祈りがあり、民族の歌や踊りがある。中国のように餃子を食べたり、爆竹を鳴らしたり、はない。

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