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2019年7月28日

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世間のとび職へのイメージを私たちはどうしても変えたい

鈴木職業訓練校の実習、以下同

 今回は、25年前から建築工事現場のとび職などの技能工となる新卒者(高卒)の採用を毎年続ける鈴木組(東京都文京区、正社員72人)を取材した。

 同社の創業は江戸時代後期(当時は今村組)で、徳川家の土木工事にも携わった。1910年には、東京駅の竣工に関わる。業績が拡大し、1956年に法人化した。

 現在は大手建設会社・大林組の協力会社として、都内及び近郊を中心に鳶(とび)工事、土木工事や物流工事、養生・クリーニング、内外装解体などを手掛ける。最近では東京スカイツリー(墨田区)や虎ノ門ヒルズ(港区)、オーク表参道(港区)などの工事に関わった。

 過去6年で、技能工になる新卒者(高卒)の入社数は次のとおり。2014年が7人、15年が6人、16年は4人、17年が4人、19年は4人。毎年、男女ともに学校の推薦を得ているならば採用試験を受験できるが、現在までは女性のエントリー者はいない。18年は従来どおり採用活動をしたものの、応募者がおらず、入社した者はいなかった。現在、2020年入社の新卒者の獲得に向けて社長以下、役員、次長などの管理職がチームを組み、採用活動を続ける。

 鈴木央(なかば)社長は、「好景気の影響で1つの高校につき、多い場合は1000社を超える求人があると進路指導の教職員から聞く。生徒からすると、選択肢が相当に多い時代だ。学校や生徒、保護者からすると好ましいのだろうが、弊社に注目してもらうのは容易ではない」と現状をとらえる。

 一時期は応募者数が少なく、採用を中止することも検討したという。それでも、先代の社長(鈴木社長の父で、故人)の方針「人を育ててこそ、しっかりした企業になる」を守り、新卒採用を続ける。鈴木社長は「世間のとび職へのイメージを私たちはどうしても変えたい。社会から信用される存在にしたい」と語る。

 建設業界は、ヒエラルキーが浸透している。最上位に大手企業があり、その下に元請けの中堅企業、さらに下請けとして中小零細企業が多数ひしめく。特に中小零細企業で働く職人は、日雇い労働者が多い。しかも、人手不足は深刻化している。国土交通省によると、建設業就業者数は約492万人(2016年)で、ピーク時(1997年)から28%減となった。2016年の調査では高齢化が進み、55歳以上が34%であるのに対し、29歳以下は11%だった。

 このような時代になることを鈴木組は30年程前から見通し、若手の労働力を確保するためにも、とび職などの職人を正社員として雇う試みをしてきた。25年前には、高卒の新卒者の採用を本格的に始めた。

 「新卒入社の職人は日雇いの職人に比べて定着率が高く、仕事への姿勢がよい。労働安全意識は高く、労働災害になる確率は概して低い。入院するような事故に巻き込まれた職人は現在までいない。鈴木組の技能工であることに誇りを持ち、仕事に取り組むようになり、後輩にも積極的に教える姿をよく見かける」(鈴木社長)

 25年間で雇い入れた新卒の職人の中には、現在、現場の中核を担う者がいる。最近は、50人以上の職人を束ねる現場の長(大林組認定のスーパー職長)も現れた。建設費500∼1000億円のプロジェクトの職長もいる。さらには、優秀施工者国土交通大臣顕彰者、安全優良職長厚生労働大臣顕彰者、東京都優秀技能者などがそろう。鈴木組の新卒採用の試みは労働力不足の時代を見通し、人材を着実に育成する挑戦と捉えることもできよう。

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