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2012年2月22日

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宮脇磊介 (みやわき・らいすけ)

初代内閣広報官。1956年東京大学法学部卒業後、警察庁入庁。静岡県警本部長、皇宮警察本部長などを経て、86年に、新設された内閣官房内閣広報官に就任。中曽根、竹下両総理に仕える。現在、世界平和研究所研究顧問などを務める。

3月4日の大統領選でプーチンの再選が有力視されるロシア。
昨年末の下院選後の混乱で、選挙対策の練り直しは必要だが、プーチン体制再来は覆らない。
一方で日本は、ロシア国民が反発する言葉を繰り返し、自ら両国の距離を遠ざけてきた。
日露双方の国益を正確に再認識し、局面を打開する攻めの外交に転じて、
戦後長年の懸案である北方領土問題解決へ向け、良好な信頼関係を構築すべきだ。

 ソ連崩壊から20年が経った。今年3月にはロシア大統領選挙を迎え、プーチン首相の返り咲きが有力視されている。こうした歴史的転機を迎えるなかで、昨年12月にはロシア下院選における不正投票疑惑が浮上したことを契機に、「反プーチン」を掲げた市民による大規模な抗議集会が発生、混乱が広がっている。プーチンの強権的手法を嫌った海外のメディアでは、「アラブの春」に思いを重ねて「スラブの春」とまで期待する論調さえ報じられた。

 だが、抗議集会に参加していたモスクワ市民は、すでに自立しているリベラルな知識人や教育レベルの高い若者、中産階級などで、自由と民主主義のために立ち上がった「アラブの春」とは明らかに状況が異なる。

 対露外交の戦略を立案するにあたり、日本は、こうした近視眼的報道に振り回されるべきではない。プーチンが大統領に返り咲けば、「強大なプーチン政権ができ、北方領土問題が解決しやすくなるとの見方は幻想」といった見方がある。だが筆者は、プーチン返り咲きは日露関係のさらなる発展と、北方領土問題解決の決定的機会が到来することを意味しているとの立場だ。ただし、この機会を解決に結びつけられるかどうかは、ひとえに日本の対応にある。そのためには、ロシアという国を正確に理解することが欠かせない。ソ連崩壊から20年を「総括」し、今後の対露外交のあるべき姿を論じたい。

変わる露とプーチン
事実認識を誤る日本

 ソ連崩壊から20年、ロシアは3つの大きな変化を遂げた。

 1点目は、「ソ連」が「ロシア」に変わり、「共産主義独裁国家」から「民主主義国家」へと転換したことである。これにより、ソ連時代には首脳の一存で意思決定し、外交方針等を決めていたが、「民意」「世論」の動向を無視できなくなった。国民の求める「国益」を念頭にした政策の決定が必要となったのだ。ロシアでは今、「反政府」「プーチン批判」を編集方針の中心に置くメディアさえ登場し、世論に一定の影響を与えている。この点、中国の言論状況や国家体制とは、事情を異にする。

 2点目は、ソ連が解体しロシアになった1990年代初頭、ロシアを襲った貧困と絶望感からの脱出による国家および国民の自信回復と、天然ガス・石油の高騰によるロシア経済の好転である。ロシアはいま、再び世界の強国になることが夢ではなくなり、希望と自信の回復が、近年高まってきたロシアのナショナリズムの基盤ともなっている。

 3点目は、国力回復に伴う経済政策の新展開である。98年のロシア経済危機と2008年のリーマン・ショックによりロシア経済も打撃を受けた。また、資源に依存した経済回復であったため、産業の構造改革が進んでいない。こうした障害を乗り越えながら、経済発展の重心を欧州から東アジアへ、具体的には「東シベリア・極東開発」にシフトしているのである。

 国家のあり方が大きく変貌しただけではない。00年にプーチンが大統領に就任して以降、日露間の懸案解決、特に領土問題解決に向けてプーチンは積極姿勢を示していたのだ。

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