7月上旬、CNNなどの米国のマスメディアは「環境問題をアピールするトランプ大統領のスピーチ」を一斉に報道した。2017年の就任以来、気候変動対策に取り組むパリ協定からの離脱、石炭火力への規制緩和など環境問題への後ろ向きの姿勢を示してきたトランプ大統領が、環境問題にいかに熱心に取り組んできたかを、政権幹部、一部上院議員を引き連れホワイトハウスの会見場で初めてアピールしたからだ。
トランプ大統領に批判的なCNN、ニューヨークタイムズ紙などは、早速演説の間違い探しと批判的な記事を掲載したが、大統領が環境問題への取り組みを訴えた背景には米国世論が急速に温暖化問題解決を支持し始めたことがあるとみられる。
共和党支持者の大半は人為的な原因による温暖化を信じておらず、民主党支持者の大半は信じているのが、米国世論の傾向だったが、演説の直前に実施された世論調査では、米国民の過半数が2020年大統領選挙の重要な争点として温暖化問題を挙げており、トランプ大統領も温暖化問題を無視できなくなってきた。
環境問題への取り組みをアピールするトランプ大統領だが、米国内では石炭火力からの排出規制の緩和に続き、自動車からの二酸化炭素排出規制も緩和する方向が明らかになっている。さらに、世界の二酸化炭素排出量の28%を占める最大排出国中国と15%を占める2位米国(図-1)が温暖化対策に協力するオバマ大統領時代からの2国間の取り決めを反故にし、世界の温暖化問題への取り組みの足を引っ張っている。有言実行には程遠いようだ。
環境派アピールのトランプ大統領
7月8日午後、ムニューシン財務長官、ペリーエネルギー長官、ウィーラー環境保護庁長官などの政権幹部と共にホワイトハウスの会見場に現れたトランプ大統領は、「非常に傑出した人材を持つ米国は、おそらく世界で最もうまく環境問題に取り組んでいる。政権1日目から米国の水と大気が地球上で最もきれいであるべきことを最重要課題としてきた」と演説を始め、「全ての米国民が世界最高の質の生活を送ることができるよう環境問題に集中せよと閣僚に当初から指示を出してきた」「強い経済が健全な環境をもたらす」とし、次のような具体例に触れた。
- 前政権は米国のエネルギーに対し継続的に戦争を仕掛けた。
効果のない国際条約により労働者、製造業者は不利益を被り、 仕事を失い、環境基準が緩い海外への移転を強いられた。米国を罰する前政権の政策を、より良い環境、経済のため拒否した。その結果信じられない成果が生まれた。大統領選以降600万の新規雇用を作り出した。失業率は過去50年間で最低となり、現在米国史上最高の1億6000万人弱の雇用がある。 - 米国のエネルギーを解き放った結果、天然ガス生産は世界一となり、米国は天然ガスの輸出国になった。さらに、米国はきれいな飲料水へのアクセスでも世界一になった。大気汚染は世界平均の6分の1になった。2000年以降エネルギー起源の二酸化炭素排出量は、世界で最も多く減少した。さらに、2019年、20年と減少する見込みだ。パリ協定のどの批准国も全体として米国ほどの削減を実現していない。これが、大統領就任1年目に不公平で効果のない、非常に高いものにつくパリ協定から離脱した理由だ。
大統領は、さらに民主党左派が提案しているグリーン・ニュー・ディールのコストが約100兆ドルであるとし、環境を守る必要はあるが、米国の主権、繁栄、雇用も守る必要があると主張した。
その後、フロリダ州の商店主から赤潮被害への連邦政府の取り組み、オレゴン州郡政委員から森林保全、環境保護庁長官から大気汚染改善実績などの報告があり、最後にペリーエネルギー長官が、原子力などの技術開発に米国が努めていること、米国が原油、天然ガス生産で世界一になり液化天然ガス(LNG)の輸出により輸入国の環境が改善していることを報告した。