世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月5日

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 8月8日、ロシア北部のセヴェロドヴィンスクのネノクサ・ミサイル実験場で爆発が生じた。少なくとも7名が死亡したと報道され、そのほとんどは、「ロシア連邦研究センター」のエリート研究者達だったと言われる。ネノクサ・ミサイル実験場付近の地域では、放射能レベルが短時間上昇したが、フィンランドやノルウェーでの放射能レベルの上昇は見られなかった。その意味では、この事故はチェルノブイリ事故と同じようなものとはとても言えない。

(wildpixeliStock / Getty Images Plus)

 しかし、この事故の詳細を隠蔽しようとするロシア政府の対応は、チェルノブイル事故の際の対応に似ており、プーチンのロシアに旧ソ連と同じ隠ぺい体質があることが明らかになった。 

 プーチン大統領は、核動力源を使う巡航ミサイルの開発を発表しており、そのミサイル、SSC‐X-9 スカイフォールの実験中に事故が起きたと考えるのが最も常識的な判断である。 

 核エネルギーを動力源とするということは、原子炉を動力源とするということである。巡航ミサイルに原子炉が動力源として使われた場合、そのミサイルが到達した場所において、放射能汚染を引き起こし、環境に大きな影響を与える危険が高いと思われる。 

 ベトナム戦争中に米軍が枯葉剤を散布したことなどへの批判から、環境改変兵器禁止の声が高まり、環境改変兵器禁止条約が出来たが、気候改変技術などの戦争での利用を禁じたものである。核エネルギーを動力源とする巡航ミサイルがこの条約で禁止されているとは言えない。しかし、核エネルギーを動力源とする巡航ミサイルは、環境に与える影響など、問題を含む兵器であり、その禁止が国際的に話し合われるべきではないかと思われる。 

 プーチンは、このミサイルや極音速ミサイルなどの開発を行っている。ロシアは核大国としての軍事能力を高めるのが、国際社会での存在感を発揮する近道と考えているようであるが、こういう動きは核軍拡競争につながる。しかし、核軍拡競争を始めれば、ロシアは経済的・財政的理由から、米中両国には結局負けるだろう。ロシアこそ、核軍備管理に熱心になるべきであると思われるが、INF(中距離核戦力)条約を失効させ、さらに新START(戦略兵器削減)条約の延長にも否定的な姿勢を見せている。今度の事故以上に不可解な対応である。 

 8月12日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、核軍備管理の時代は終わったと述べているが、現状認識として正しいと思われる。主として米国が、中国を核軍備管理のプロセスに取り込もうとしているが、現状では中国がそれに応じるインセンティブを持つ状況はないと思われる。 

 「核軍備管理の時代は終わった」というのに、呼応するかのように、8月18日、米国は、ロサンゼルス沖で、地上発射型中距離巡航ミサイルの実験に成功した。続いて8月24日、ロシアが北極圏に近い海域で、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ない、成功したと発表した。米国のエスパー国防長官は、中国に対抗してと述べているが、ロシアは米国に対抗したと言っている。スターウォーズの軍拡競争で冷戦中にソ連は負けて崩壊したように、新たな軍拡競争で、疲弊してしまうのはロシアかもしれない。

  
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