WEDGE REPORT

2012年3月21日

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山添博史 (やまぞえ・ひろし)

防衛研究所主任研究官、兼、英国王立統合軍防衛研究所(RUSI)客員研究員。1975年大阪府生まれ。2004年~05年ロンドン大学スラブ東欧研究所(SSEES)修士課程、2005年~06年モスクワ大学歴史学部研究生、2008年京都大学人間・環境学研究科博士後期課程修了。専門は国際政治史、ロシア外交・安全保障政策、中露関係史。

5月に再び大統領に復帰するプーチン。3月4日に実施された選挙は大方の予想通りの結果となったが、昨年12月以来、選挙の不正を訴える抗議行動は広がりを見せ、政権はこれまでの余裕を失っている。抗議行動の行方、各国の動き、今後のロシアとの付き合い方を現在イギリスに滞在する、ロシア外交・国際政治が専門である著者が読み解く。

 2012年3月4日(日)、ロシア大統領選挙の投票が行われ、ウラジーミル・プーチン候補が6割以上の票を得て当選したと発表された。ここでは、筆者が現在滞在する英国での反応、見方を紹介しつつ、選挙前後のロシアの動向を検討する。

広がる抗議行動
かつての余裕を失ったロシア政府

 2011年12月4日の議会下院(ドゥーマ)選挙において、プーチン首相を支持しメドヴェージェフ大統領を筆頭候補に持つ最大政党「統一ロシア」は、かろうじて過半数の議席を確保した。統一ロシアへの支持は落ち込んでおり、苦戦が予想されたため、メドヴェージェフ・プーチン政権は様々な対策を試みた。投票日以降、不正の証拠であるという多数のビデオがネット上に投稿され、選挙の不正を訴える抗議行動が広がった。政権への抗議や選挙不正の批判は、従来も小規模に行われていたが、今回はこれまで活動に参加していなかった多数の国民が、継続的に抗議運動を展開し、下院選挙のやり直しやプーチン氏の退陣を求めるようになったのである。米国が国家転覆をもくろんで民間団体を操作していると政府要人がたびたび発言し、選挙の不正を指摘する団体のサイトが攻撃されるなど、これまで政権に余裕があった頃とは違った現象もあらわれた。

 「『アラブの春』には至らず」という見方が大半

 英国など外国のウォッチャーもこれらの現象に注目し、ロシア政治の新たな段階として認識しているようである。大統領選挙が迫った2012年2月、チャタムハウス(王立国際問題研究所)が発表したレポートは、国民の政治意識や経済などロシアが抱える問題が数年で深刻化する可能性があると分析した。提言としては、西側諸国はロシアの現リーダーの言うことをそのまま認めるのではなく、ロシア全体を支援してリベラルな世界に統合すべきと述べている。

 ロシアでは12月に引き続き、2月4日にもデモが行われ、モスクワでは反プーチン集会と親プーチン集会が開かれて数万人規模の国民が参加した。ただし、大半のロシア情勢分析は、抗議運動がこのまま政権の転覆をもたらすとは見ていない。多くの新興中間層の不満が表現されるようになったものの、ウクライナやグルジアの政権交代で見られたような統一的リーダーシップはロシアには見られず、連日の騒動が衝突の緊張を高めていくというような流れにもなっていない。政党統一ロシアとは違い、プーチン氏個人への支持は他の政治家に比べて格段に高く、プーチン氏以外の候補を選ぶならばこれまでの安定も期待しにくくなるのである。

「プーチンの終わりの始まり」

 英国では、大統領選挙投票日に向けて、BBCなどでロシア政治の話題が繰り返し取り上げられた。エコノミスト誌は、結果が予想される投票日の前の号で、「プーチンの終わりの始まり」を表紙に掲げた。投票日の翌3月5日、多くの新聞はロシア大統領選挙のニュースを1面で大きく扱った。フィナンシャル・タイムズ(FT)紙、ガーディアン紙、インディペンデント紙は涙を見せて勝利宣言を行うプーチンの写真を1面に載せた。また多くの報道が、同一人物が複数の投票所に移動して投票する不正手段をcarousel(回転式コンベヤー)ということばで報告している。欧州安全保障協力機構(OSCE)の選挙監視団の暫定報告書は、投票そのものの状況は良好であり、投票所にロシア人選挙監視員が増加したなどの肯定的な点を挙げつつ、集計プロセスが不透明であり、特定陣営がメディアや不正な動員を利用し、立候補希望者が不合理に排除されたなどの問題点を指摘した。

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