EU農政改革の歴史こそ
日本が学ぶべき規範

「ルビコン河を渡った」大改革


白岩 宏 (しらいわ・ひろし)  国際食料農業貿易政策協議会元理事

東京農業大学客員教授、国際食料農業貿易政策協議会(IPC)会員、同元理事、元国際農業交流・食糧支援基金参与、元三井物産取締役、穀物貿易および穀物貿易会社経営の専門家、IPCを通じて世界的人脈を持っている。

変わる農業 変わらぬ農政

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4月30日に行われた日米首脳会談で野田佳彦首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加表明をしなかった。米国議会へ通告し、日本が年内に交渉参加するには、残された時間は少ない。ここ1~2カ月が正念場となるだろう。

何も進まぬ日本の農政改革議論

 前回も指摘した通り、TPPで「開国か鎖国か」の“入口”の議論に終始してはいけない。日本はTPP参加を見据え、開国後の戦略を同時並行で立案する必要がある。

 ところが、日本ではTPP議論があっても農政改革の議論は遅々として進んでいないのが現実である。本来は、農政改革の議論があって、TPPを意識した調整が議論されるべきだろう。日本の農業法案は農林水産省が作成するが、与党による政治的な介入や締め付けが強く、自由な議論が行われる保証はないようだ。困ったことである。しかし与党が農業法案を自力で策定した歴史は聞いたことがない。

世界食料システムに向かい米欧農政は収斂

 一方、EUでは2013~20年にかけて行われる共通農業政策(Common Agricultural Policy、以下、CAP)の改革議論がすでに始まっている。米国でも08年農業法の後継である12年農業法議論が始まり、上院農業委員会から改革案が発表された。EUでは改革案は欧州委員会(官僚)が準備をするが、米国では議会が法案を作る。米欧はお互いに農業政策の類似点と相違点を意識しながら、次の作戦を考えている。

 しかし最終的には、WTO(世界貿易機関)ルールの下で、“世界食料システム”に向かって大西洋をはさむ農政が収斂するという目標は意識されている。

ビジネス的視点からCAPの歴史を学べ

 筆者は前回の本コラムで、「日本はEU型農政の日本版を検討すべきだ」と主張した。国際競争力が比較劣位のEUの農政改革の歴史こそ日本が学ぶべき規範だと思う。そこでEUのCAPがどのような歴史をたどってきたのか、簡単にレビューする。

 CAPは1960年代から始まり、92年に歴史的な改革を実施し、その後数次の急激な改革を経て今日に至っている。最初の30年を前期とし、その後の20年を後期として、日本が学ぶべき点について、ビジネス的視点から考えてみたい。

前期CAPの最大の特徴は「価格政策」

 前期CAPの特徴としてまず挙げられるのは、「価格政策」である。EU(当時EC:欧州共同体=European Community)は、域内農産物価格が世界価格をはるかに上回る水準に設定し(境界価格という。例えばともろこしは2倍)、農業生産者の所得を引上げた。一方、競合する輸入産品には変動輸入課徴金制度(一種の関税で境界価格と輸入価格の差額)を賦課した。

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「変わる農業 変わらぬ農政」

著者

白岩 宏(しらいわ・ひろし)

国際食料農業貿易政策協議会元理事

東京農業大学客員教授、国際食料農業貿易政策協議会(IPC)会員、同元理事、元国際農業交流・食糧支援基金参与、元三井物産取締役、穀物貿易および穀物貿易会社経営の専門家、IPCを通じて世界的人脈を持っている。

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