安保激変

2012年6月15日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 意外と知られていないことだが、アメリカは国連海洋法条約に加盟していない。1982年に採択、94年に発効した国連海洋法条約は、各国の領海や経済資源の採掘に関わる排他的経済水域(EEZ)の範囲など、地表の71%を占める海における国家の権利と義務を定義し、「海の憲法」と呼ばれている。

オバマ政権内で相次ぐ批准を求める発言

 現在160カ国以上がこれに加盟しており、他に批准していないのは、アメリカがかつて「悪の枢軸」と名指した北朝鮮やイランなど素行に問題のある国がほとんどである。日本は同条約を96年に批准し、施行された7月20日は「海の日」という祝日に制定された(現在はハッピーマンデー制度により7月第3月曜日である)。

 このところ、オバマ政権の高官による同条約の批准を求める発言が相次いでいる。5月9日にはパネッタ国防長官とデンプシー統合参謀本部議長がそろって国連海洋法条約がアメリカの国益にかなうと発言し、23日には同じくパネッタ国防長官とクリントン米国務長官が上院外交委員会で行われた公聴会で証言し、条約の批准承認権を持つ議会上院に国連海洋法条約への早期批准を促した。

 実は、国連海洋法条約が発効した94年以降、歴代すべてのアメリカ大統領が批准を支持してきた。合衆国憲法の規定で、条約は上院の3分の2の議決による「助言と同意」を経て大統領が批准する。04年には上院外交委員会は同条約の批准を19対0で可決し、07年にも17対4で可決した。しかし、いずれも一部の共和党保守派の反対により、批准の手続きは成功してこなかった。

中国がしかける「法律戦」

 しかし、今回は上院が国連海洋法条約を批准する可能性が高いと多くの専門家がみている。なぜなら、大統領選挙の最中であるにもかかわらずオバマ政権がこの問題に本腰を入れているのは、中国がしかけている法律による戦争に対処するためだからである。法律戦とは、国際法の解釈を恣意的に変更することによって政治上の目的を達成することである。中国は国連海洋法条約を96年に批准したが、それを中国近海におけるアメリカ軍の活動を制限するために恣意的に解釈してきた。

 たとえば、一般的な海洋法の解釈とは異なり、中国は自らのEEZ及びその上空において外国の軍事活動を認めていない。このため、中国はアメリカの艦船や偵察機が黄海や南シナ海で行っている軍事情報の収集活動を妨害してきた。

→次ページ EEZにおける外国軍の活動を禁止する中国

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