プーチンの愛国主義政策で
米大統領選後の米ロ関係も期待できず


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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最近、プーチン大統領の「愛国主義」的な政策と反欧米路線が相次いで表面化してきている。

 プーチン氏は、国民の愛国心育成の必要性を高らかに掲げ、10月20日には、「愛国教育の分野における国家政策の改善」に関する大統領令を出し、社会プロジェクトに関わる大統領局(「社会計画局」)を新設した。同局の目標は「ロシア社会の精神的・道徳的基礎を強化し、愛国教育の分野で国家の政策を改善し、その領域における重要な社会プロジェクトを取りまとめ、実行すること」とされている。

 さらに別の大統領令で、大統領国内政策局の副局長であり、情報政策と市民社会との相互関係に通るとされるパーベル・ゼニコビッチ氏をその局長に任命した。

 職員数や管轄など、まだ曖昧な点も多い同局であるが、プーチン氏の強い希望で創設されたことから、今後、注目すべき組織となる可能性は高そうだ。プーチン氏は以前から、ロシアの社会道徳の低下を危惧し、歴史的・道徳的意識の歪曲がロシアに災難を引き起こしてきたとして、愛国・精神教育に力を入れていく必要を再三述べていたという。

「ロシア帝国とソ連の繰り返しではならない」と言うが…

 また、愛国・精神教育の推進に際しては、ロシア帝国とソ連の経験は活用できるが、その繰り返しではならないと強調している。そのため、より適切な新しい方法を模索しており、ロシア人の愛国心を効率よく刺激ために、諸々の事前調査も行っている。既に、ロシアで社会学的手法による愛国心の実態に関する調査が着手されているほか、アメリカの愛国・精神教育に関する経験についての調査も開始されているという。さらに、今後、アメリカ以外の外国の経験についても調査を進める予定だそうだ。また、ソ連解体前後で、人々の意識が大きく変ったことから、世代ごとの調査や対応も行われるようである。

 さらに、専門家集団を結成し、質の高い映画やアニメ制作を行ったり、学校教育で何が出来るか考えたり、企業家と話し合ったりしていくことも考えられているが、どれも地道な作業が求められるため、成果が出るまでにはある程度の時間がかかることは織り込み済みなようである。

 なお、プーチン氏が想定するところの、「愛国心」には、国家と家族の価値の尊重、順法精神が含まれている一方、上からの官僚的な愛国主義の押しつけや「人種的、民族的、宗教的な排他性」の蔓延は認めないともしている。だが、専門家は「愛国心」のイデオロギーは画一的にはなり得ないとしており、そのゴールセッティングも容易ではなさそうだ。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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