プーチン大統領外遊で明らかになった
ロシアの対米姿勢

米国はグルジアを訪問


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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2012年5月7日に再び大統領に就任したプーチン氏だが、内閣や大統領府のメンバーの決定には若干時間を要し、前者の陣容が発表されたのは21日、後者の発表は22日であった。そのような政権の主要メンバーの決定によって、新たなプーチン政権が本格的に始動したといってよい。その後、本格的な外遊も始まり、新内閣の外交の方向性も見えてきたといえる。本稿では、プーチン氏の外遊の動向から、今後の外交の方向性を探ってみたい。

世界に衝撃を与えたプーチンのG8欠席

 プーチン大統領就任後、最初の衝撃を世界に与えたのが、米国キャンプデービッドで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議を「新内閣発足に専念するため」という理由で欠席(メドヴェージェフ首相が代理出席)というニュースだった。G8はロシアにとって重要な意味を持っており、もともとはG7だったところに悲願の末、参加を認められた経緯がある。だが、その欠席理由については、さまざまな憶測を呼んでおり、新内閣発足に専念という理由は、名目に過ぎないと見るのが大勢の見方だ。

 ロシアの「コメルサント」紙も、消息筋の話として、プーチン外交においては、米国が優先事項に相当しないことの表れだという見解とともに、「メドベージェフ前大統領は数回、米国を訪れているが、オバマ大統領は一度しかモスクワを訪れていない」という事実を報じた。さらに、ロシアにとっては外交的な大イベントである極東ウラジオストクで9月に開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にも、オバマ大統領は欠席の意向を示している(ロシア外務省によれば、昨年からこの意向を受け取っていたという)。

 加えて、米ロの「リセット」に影を落とす、欧州ミサイル防衛(MD)システム問題やNATO拡大問題、さらに中東問題など、米ロ間の深刻な問題は容易に解決できるものではなく(たとえば、拙稿「『リセット』できないロシアと米国」などを参照)、イメージを重視するプーチン氏は、新政権における初外交で米ロ間の不破や不愉快な結果を残すことを避けたかったのかもしれない。

旧ソ連、欧州、アジアを重視

 そして、実際のプーチン外交からは、米国を軽視する一方、ロシアの近い外国(旧ソ連諸国)、そして旧ソ連地域に隣接する欧州とアジアを重視する姿勢が明確に見て取れる。

 まずプーチン大統領就任直後の5月15日には、旧ソ連の独立国家共同体(CIS)7カ国で構成する「集団安全保障条約機構」がモスクワで首脳会議を開催し、米国が欧州で進めるMD配備計画の一方的推進への反対などを盛り込んだ宣言を採択した。これはプーチン復帰後の初の首脳会談、つまり初外交といえる。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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