オトナの教養 週末の一冊

2012年11月30日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 衆院選の争点として「脱原子力」がとりざたされている。第三極と呼ばれる新党が雨後の筍よろしく相次いで旗揚げし、「脱原子力」という一点のみを共通項として大同団結する動きがある。

 解決しなければならない喫緊の課題が山積しているのにもかかわらず、現実無視のきれいごとを並べる候補者には、ぜひ本書を読んで足元を直視してもらいたい。

 『電力改革論と真の国益』は、「非常時にこそ、沈着冷静に、『真の国益』は何かという点に軸足を置くべきだ」と、地に足の着いた議論を呼びかける。

懲罰感情に任せて論じられる電力問題

 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故後、電気の特性や電力供給に関する基本的知識をもたないまま、懲罰感情に任せて脱原発論や発送電分離、「ゼロベースからの見直し」などを唱える人が少なくない。

 もちろん、著者のいうように「今行なわれている議論が正しい方向に収束し、日本の繁栄、そして子々孫々の世代に自信をもって継承できる電力システム確立の一助になれば」、大いに議論は結構だ。

 しかし、スピード感をもって取り組まなければならない課題を置き去りにしたまま、長期の展望を論じるのは、本末転倒ではないか。

 選挙戦を見ていても、目の前の現実との時間軸のずれを感じる。

電力会社寄りでない、公平で客観的なプロの視点

『電力改革論と真の国益』
(井上雅晴、エネルギーフォーラム)

 <電力の問題は国民の生活と産業の根幹を支える安全保障の一つであり、システム構築には巨額の資金と気の遠くなるような時間がかかる現実を見ないで、電気事業の骨格まで大幅に組み替えるような議論は軽々に行ってはならない。このシステム構築を誤れば、先人の努力でここまで発展した日本を衰退へと向かわせてしまうことになると言っても過言ではない。海外の事例を基に机上の推論を立て、電力システムの改革を提唱しているが、海外の事例はどこも目論見と現実の乖離が大きいことを認識しなければならない。>

 <時代と共に新しいものを入れていくことはいいが、思いつきとか推論で大きく舵を切ることは電気事業に関する限り危険だし、筆者の体験からも賛成しかねる。>

 国内外の環境・エネルギーの現場を取材してきた経験から、私も著者のこの主張に一票を投じる。

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