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2013年1月9日

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澤 昭裕 (さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

 昨年10月に公開された東京電力社内のテレビ会議の模様を見た。福島第一原発免震重要棟緊急対策室本部と本店非常災害対策室とのやりとりを中心に、時々福島オフサイトセンターを含めたコミュニケーションの様子の所々を、5時間余り分ピックアップして、音声入りの動画を公開したものだ。また、その後11月末にも追加の画像公開がなされている。

 もちろん、これで全貌が分かるわけではない。ただ、これだけの画像公開でも、丹念に見ていれば、事故時のコミュニケーションや事態のコントロール、組織マネジメント等に関して、どこに問題があったかがある程度理解できる。きれいに整理されて文章化された事故調の報告書などを読んでいるだけでは、関係者が動き回る情景や現場での口頭のやりとりの状況を想像したりすることは難しかった。

 もちろん、私は原子力関係の技術者ではないので、技術に関連した情報の処理や、打たれた事故対策が正しかったかどうかは評価できない。しかし、こうした異常時において、より効率的・効果的な意思決定をするにはどうすればよいかについて、感じたことはある。

 最も深刻な問題は、物事の処理をする際の組織体制と各人の権限と責任が、上から下まで不明確だったことである。作業を指示したり、情報の報告を求めたりする際に、その指示の名宛て人を明示せずに「○○という作業、誰かやってくれ」「○○を知っている人は誰だ」「○○について判断お願いします」などという会話が多いことが目立つ。これでは、必要な作業があっても「自分の仕事だ」と自覚することができない。また、その結果はどの程度まで達成することが求められて、いつまでに誰に報告すればよいのかも分からない。

 その関連で、権限と責任が明確ではない人が、事態の解決について意見を述べることが散見される。しかし、これは当然現場を混乱させる。では、現場を混乱させる原因になるという自覚をその本人が持つように求めようと思っても、実際にはその本人は善意や責任感でそうした意見を述べているつもりだから、そのような自覚を持たせることは至難の技だ。むしろ、こうした異常時には、ライン以外の人がどんな実績を持っていようと、どんな有識者であろうと、判断の現場に身を置いたり、ライン意思決定権限者の許可なく発言したりすることを禁じるべきである。

 一方、権限と責任が明確な人が、事態の判断や必要な作業について明確な「指示」ではなく「感想」めいたことを言う場面も多い。それを聞いた方は「で、どうすりゃいいんだよ」と苛立たしい思いを持つだろう。ラインの最終意思決定者は、異常時には自分の言葉は全て「命令」だと認識して発話する必要がある。これを本人の資質如何にかかわらず、システム的に確保するためには、異常時においてさえも節目節目での判断や指示は、可能な限り文書化することだ。もちろん、それが異常時において非常に困難なタスクだろう。しかし、今回の官邸での会議の議事録欠損問題や、東電社内テレビ会議で一度決めたことを(そのことを知らなかった人が)再度蒸し返している場面があったりする問題を見れば、文書作成は、どんなに困難であっても、一人専任にしてでも遂行すべきタスクだ。平常時に様々な文書のフォーマットを決めておくことによって、異常時の文書作成では、指示内容の記述に専念できる。

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