総務省「通信利用動向調査」によれば、2010年のインターネット利用者数は9462万人、人口普及率は78.2%にのぼる。この数字を2000年の人口普及率34.0%と比較すれば短期間の間に飛躍的にユーザーが増加したことがわかる。さらに、通信の高速化やスマートフォンの普及など、時代を経るごとに情報通信インフラの整備が整った。我々はそのような2010年代に生きている。
もちろん、新たな技術が発展すればそれに伴う様々な問題も生じる。本連載では、広大なサイバー空間に広がる諸問題を「権力」を軸に取り上げてみたい。とはいえ、権力とは一言では言い表せない概念である。そこで本連載では、毎回取り上げる事件を通して、権力とは何かを問う。今回は遠隔操作ウイルス事件を通して、事件の背景にあるサイバー空間の技術的構造と、警察権力の問題を考えてみたい。
遠隔操作ウイルス事件とは
2012年下半期に生じた「遠隔操作ウイルス」。事件は、犯人が作成したコンピュータウイルスに感染した不特定多数のユーザーが、ウイルスによって自動的に殺害予告メールの送信などといった違法行為を、被害者自身のパソコンから送ってしまうというものである。周知の通り、事件は結果的に4人が誤認逮捕されるなどの被害をもたらし問題化され、その後2013年2月10日、IT関連会社社員・片山祐輔容疑者(30)が逮捕された。無論、逮捕された=犯人ではなく、原稿執筆時点では事件の裁判もはじまっていない。そこで真犯人が誰であれ、本稿は片山容疑者を犯人と断定する意図はないことを先に断っておく。
2013年に入ってからの経緯を簡単に整理する。遠隔操作事件が難航していると思われた2013年元日、突如として遠隔操作ウイルスの犯人を名乗る者がメディアに向けてメールが送られた。メールに送付された問題に答えると、遠隔操作ウイルスのソースコード入りの記憶媒体の所在を示す情報が表されたが、結局記憶媒体は発見されなかった。すると犯人は1月5日に改めて問題入りのメールを送った。その答えから割り出されたのは神奈川県は江ノ島。そこに生息するネコの首輪に記憶媒体がつけられており、警察が首輪を回収したとの報道がなされた。
この江ノ島の防犯カメラこそが片山容疑者逮捕の契機となったのだが、しかし担当の佐藤博史弁護士によると、証拠は希薄であるという。佐藤弁護士をインタビューしたジャーナリストの江川紹子氏の記事も注目を集めており、またもや冤罪の可能性が指摘されている(http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20130219-00023545/)。また、逮捕前に猫カフェで猫と戯れる片山容疑者をマスコミが報道していることから、警察からの情報リークに関する疑惑や、マスコミ報道の倫理に関する問題も生じている。