あの辛坊キャスターが、目の不自由なブラインドセーラーと2人で太平洋横断に挑む。
この世界初のプロジェクトが実現に向かう背景には、50代男の“人生のリセット”があった。
3月13日、キャスターの辛坊治郎さんが、ヨットでの太平洋横断に挑戦することを発表した。6月に大阪北港を発ち、途中福島のいわき小名浜港を経由。約2カ月かけてアメリカ西海岸のサンディエゴ港を目指す。
単独横断ではない。目の不自由なブラインドセーラー、岩本光弘さんとのダブルハンド(2人乗り)による太平洋横断だ。世界初のチャレンジだと言う。
大学でヨットを始めた辛坊さんは、「世界一周が夢」と周囲に言い続けてきた。とはいえ航海は淡路島から徳島までが中心で、オーバーナイト(夜通し航海)の経験はほとんどない。インタビュー冒頭、太平洋にかける想いを尋ねると、笑顔の辛坊さんにこんな肩透かしをくらった。
「夢は叶わないから夢なんですよ」
そんな“夢”がなぜ実現しつつあるのか。
一人のセーラーの情熱が周囲を動かしていく
2012年6月、吉本興業の不動産・事業開発を手がける事業会社、よしもとデベロップメンツ社長の比企啓之さんは重い足取りでサンディエゴに向かっていた。岩本さんに断りに行かなければいけないからだ。
セーラーの愛読書、『Kazi』(舵社)2012年1月号のコラムに、比企さんが所有する「エオラス」が紹介された。間寛平さんがマラソンとセーリングで世界一周を成し遂げた「アースマラソン」で、太平洋と大西洋を渡り切ったヨットだ。若い頃から太平洋横断を目指していた比企さんは、1995年に貯金をはたいてアメリカで外洋航海用として定評のあるエオラスを中古で購入。その後比企さんは、寛平さんの“ひらめき”から始まったアースマラソンを具現化し、太平洋横断を本当に実現してしまう。コラムの筆者Tadami氏はエオラスの半生を描き、記事をこう結んだ。