国、企業が担う仕事の垣根を変えて社会システムの設計を見直す時期。国は戦略を立て、実務は民に託せ。
東京大学文科一類の入学試験でセンター試験による第1段階選抜が13年ぶりになかったという。文科一類は官僚養成校として名高い「東大法学部」に自動的に進むことのできる類でかつては人気が高かった。ここを出たミニコンピューターともいえる高度人材は役に立つ時代もあった。最低限必要な知識とノウハウが丁寧に整理されていて、また極限状況でもその知力を使う鍛錬を経ているので、朝7時からの大臣へのレクであれ、地方の知事や市長からの陳情であれ、臨機応変に対応できる。
世の中の方向付けが戦略的に決まっている時代はそれでよい。だが、知識もクラウドの時代である。ネットを駆使すれば知識は暗記しておかずとも、見たこともないオピニオンを見ることができる。頭の中に閉じ込めておくよりは、ネットを通じて探索する力もいる。
私が英国に留学した際、40歳までシティーで稼いだ後は、世の中に貢献しようと規制官庁側に入る。寄付をして障害児教育を行うなどの姿を見た。そもそも英国では法学部から官庁に入る人は少ない。法律を作る際には、専門家である弁護士事務所に委託する。戦略を考え、知識は外の専門家を使うから、頭脳はよりコミュニケーションとディレクションに集中する。
最も要求される素養は歴史学や哲学の見識だ。大英帝国は幾度となく、危機を乗り越えて、国力は日本よりはるかに弱いながらも、世界に対して一定のインフルエンスを持っている。その基盤にあるのは知識というよりは、時間軸と空間軸を見ながら、戦略論を立てる鍛錬ともいえる。
カナダの外交貿易省から経済産業省に出向された方と一緒に産業界のインタビューに回ったことがある。彼もそうであったが、新卒から役所に入る人は稀であり、平均入省年齢は30歳。社会経験を経ていないと解けない問題が公務員試験に多いという。平均在任期間も5年程度と聞いた。民間から転職して、経産省初の本省課長として勤務した私も5年と3カ月で民間に戻る決心をした。カナダ的には悪くない在任期間だ。