2024年5月19日(日)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年8月23日

日本のデジタル化というミッションを課され、発足したデジタル庁。チーフアーキテクトの江﨑浩氏に同庁の「現在地」を聞いた。
話し手・江﨑 浩
聞き手/構成・編集部(梶田美有)
江﨑 浩 Hiroshi Esaki
デジタル庁 Chief Architect/
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
1963年生まれ。九州大学工学部修士課程修了。東芝入社、米コロンビア大学客員研究員、東京大学大型計算機センター助教授などを経て現職。著書に『インターネット・バイ・デザイン 21世紀のスマートな社会・産業インフラの創造へ』(東京大学出版会)など多数。

 今、われわれが目指しているデジタル化はこれまでのものとは全く異なる。

 2000年代以降、日本が進めてきたのは今あるものを効率化するという「As-Is」のデジタル化であった。一方で、現在目指しているのは「To-Be」のデジタル化だ。これは、やり方を変えることによって、単なる効率化にとどまらず、それ以上の価値や可能性を見出すことを意味する。

 例えば、印鑑のデジタル化。単にデジタルの印鑑を使用するのは「As-Is」だ。一方、「To-Be」のデジタル化では印鑑が必要となる手順を整理することから始める。例えば支払い業務の決裁時、紙の書面に押印することがあるとしたら、その過程を見直すことで、そもそも押印という行為が不要となることもあるだろうし、オンライン決裁によって、決裁者がアイコンをクリックするだけで支払いまで完了されるように手順を変えることもできる。これが「To-Be」のデジタル化だ。

 デジタル庁がこれまで日本のIT戦略を担ってきた組織と大きく異なるのは「実行力」。かつての組織は司令塔として規定やガイドラインを策定し、自治体などへ「推奨」することが主たる業務だった。一方、デジタル庁ではIT分野に精通した民間人材を登用することによって、推奨するだけでなく、システム自体を自分たちで開発して提供することが可能となった。

 司令塔だけでなく、ベンダーとしての役割も担うデジタル庁に与えられたミッションはさまざまだ。

 自治体向けに与えられた最大のミッションは基幹業務システムの標準化・共通化・モダン化(デジタルネイティブ化)だ。自治体のシステムはこれまで、各自治体専用にカスタマイズされてしまっていた。標準化・共有化・モダン化によって、自治体間でのデータ連携が可能になるため、自治体の業務効率化や国民の利便性向上を図ることができる。

 この他にも、自治体同士が事例を共有し合える場を提供することにより、各自治体間でのデジタル化も後押ししている。例えばビジネスチャットツールを活用することで、気軽に「前例」を共有できるだけでなく、タイムリーなアドバイスも可能になった。現在、約5000人の自治体職員が参加し、日々活発な議論を交わしている。


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