ギリシャをはじめいくつかの国で財政危機が明らかになって以降、経済が不調な欧州では温暖化への関心も薄れているようだ。欧州では温暖化対策の中心は、域内の事業所に割り当てられた二酸化炭素の排出枠だった。割り当てを達成できないと、達成し枠を余した事業者から枠を購入する必要がある制度だ。枠の購入のための支出を避けるために、二酸化炭素の削減努力を各企業が続け、新技術への投資も起こるはずだった。
しかし、景気の低迷により殆どの企業は枠を余している。売りたい人ばかりだ。ために排出枠二酸化炭素1トンの価格は3ユーロを割っている。日本では二酸化炭素1トン削減するコストは、数万円、あるいは10万円以上とも言われている。欧州では省エネの進んだ日本ほどコストは高くないが、それでも3ユーロで排出枠が買えるのであれば、自社で削減を行うより安いに違いない。誰も削減努力はしない。
経済低迷で余裕がない欧州
温室効果ガスの削減努力どころか、電力業界では価格が上昇している天然ガスから石炭へのシフトが起こっていることは、『「夢」と呼ばれる日本の「革新的エネルギー戦略」と欧州・米国の現実路線』でも伝えた通りだ。二酸化炭素の排出は増えるが、経済低迷により余っている排出枠を買えば安く発電できる。そんな欧州のなかで、排出枠価格を上昇させようと躍起になっているのが英国だ。
英国政府の気候変動委員会は2030年の電力部門からの二酸化炭素排出目標を1kWh当たり70gとしている。今の数値は550gだ。
ちなみに、石炭火力の二酸化炭素排出量はkWh当たり約940g、石油火力740g、天然ガス火力600gだ。30年の目標値70gを達成するためには、殆ど二酸化炭素を排出しない原子力と再生可能エネルギーを大幅に導入するしかない。石炭火力は論外だ。常に発電できない再生可能エネルギーのバックアップにはガス火力を利用するしか方法はない。設備コストの高い原子力は常時運転する必要があり、再生可能エネルギー発電のバックアップには利用できない。
現状低すぎる排出枠の価格を人為的につりあげるか、補助金や収入保証でゲタを履かせないと、低炭素の電源への投資は進まない。困った英国が後者の手法も採用しようとしていることは別稿で述べたとおりだ。
排出枠が安いままでは、誰も二酸化炭素削減の努力をしないというのは、電力業界に限った話ではない。このままでは、省エネなどの技術開発への投資もなされず、温暖化対策が進まないという危機意識を英国政府は持っている。欧州委員会も同様の問題意識を持ち、排出枠のオークション数量を後ろ倒しし、割当数量を減らすことにより排出権価格を上昇させる提案を行ったが、経済対策優先の他の欧州主要国の支持を得られず欧州議会でも否決されてしまった。排出枠価格の上昇は、産業界には負担になる。経済が低迷しているいま、そんな余裕はないということだろう。
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