昔の炭鉱労働者は劣悪な環境の坑内で命を懸けて採炭作業に従事していた。このために炭鉱夫は命知らずのところがあり結束が非常に強かった。日本でも1959年から60年にかけ「総資本対総労働」の戦いと呼ばれた三井三池争議があった。米国でも20年ほど前までは当時の全米炭鉱労組が労働協約改定を巡るストライキに入ると、必ず死者が出た。例えば、経営者側が炭鉱の貯炭を運び出そうと輸送業者を雇うと、トラックの運転手をライフルで狙撃する。炭鉱長の車にダイナマイトを仕掛ける、スト中の地域の警備には州兵が出動するが、その州兵を狙撃するなどの荒っぽいことを行うからだ。
オーストラリアでも英国でも炭鉱労働者の結束は強かった。先日亡くなられた英国のサッチャー元首相が行った改革の一つに電力自由化がある。市場主義の実践だが、狙いの一つは炭労つぶしだったのではないかと思っている。結束が強く荒っぽい炭鉱労働者は目の上のたんこぶだったに違いないからだ。また、日本、英国など地質条件が悪く、採炭コストが上昇した国でも第一次オイルショック以降炭鉱の温存が図られたが、80年代には、それも限界にきていた。
割高な英国産の石炭に対して問題意識があったサッチャー元首相は、1980年代半ばに炭鉱の閉山を巡り炭鉱夫と鋭く対決した。結果炭労が敗れたが、石炭の退潮を決定的にしたのが自由化だったのではないだろうか。英国では国内炭鉱の閉山が相次ぎ、90年には9100万トンあった石炭生産は95年に5000万トン、2000年に3100万トンと急速に減少した。一方で、サッチャー政権は89年に電気法を改正し、国営発送電会社を分割。図‐1の通り、老朽石炭火力から90年代に生産が急増した北海の天然ガスを利用するガス火力へのシフトが急速に進んだ。ここまでの英国は、自由化の成功例と引き合いに出されることが多い。
しかし、その英国では近年、電源が不足し、停電が予想される事態になってきた。自由化された市場の下、電源の新設に際しては、また石炭が問題になっている。温暖化対策を進めたい英国は、発電コストは安いが二酸化炭素を大量に排出する石炭火力を避けるために、新たな制度を導入する予定だが、その制度は自由化とは異なる方向だ。
自由化された市場で
安定して売れるのは石炭火力電源
温暖化対策を進めるためには、二酸化炭素排出量の大きな割合を占める発電用の燃料を低炭素化することが必要だ。英国は排出権価格の引き上げ策(別稿参照)と合わせて、二酸化炭素を排出しない原子力、洋上風力主体の再生可能エネルギーの導入を促進しようとしている。また、これから老朽化が進み廃止される石炭火力に代え化石燃料のなかでは最も二酸化炭素の排出が少ないガス火力の導入も進めたい考えだ。