世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月22日

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 マリオ I. ブレヘル(Mario I. Blejer)元アルゼンチン中央銀行総裁が、Project Syndicateに4月17日付で掲載された論説で、先進国経済は何れもゼロに近い成長から抜け出そうともがいているが、様々な議論のある非伝統的政策を取る中央銀行の有り方、特にその独立性の減退についてのクリアな考察を展開しています。

 すなわち、現代の先進国中央銀行は、物価安定とその為のインフレターゲットという古典的な目標に止まらず、マルチな政策目標を追求している。例えばFRBは雇用の数値目標を負い、より保守的なECB(欧州中央銀行)も、金融安定化に対して責任を負っている。金融危機以降、複数の中央銀行がインフレターゲットから離れて非伝統的政策を取ったのも、マルチな政策目標を達するためである。

 アナリストの中には、経済成長、雇用、金融の安定に優先順位をつけてバランスをとるのには政治的判断が必要で、それは選挙で選ばれない中央銀行がすべきではない、との主張も見られる。確かに、複数の政策目標の決定と遂行には政治的繊細さが必要だが、仮に目標が物価安定のみだったとしても、その判断は資産分配効果などといった政治的意味合いを持つ事になる。要は、程度の問題であり、中央銀行がマルチな政策目標を持つことは、必ずしも金融政策を実質的に中央銀行へ移転することを意味していない。

 一方で、マルチな政策目標を持つことは、中央銀行の役割の再定義を意味しており、独立性の保持が適切かどうか、疑問が投げかけられている。中央銀行の独立性がかえって弱点となって、より脆弱性を帯びる事になってしまう。その理由は、独立性を支持する二つの主張が当てはまらなくなっているからである。

 一つ目の主張は、中央銀行に独立性が無ければ政治家は長期のインフレ可能性を無視して選挙の際に短期的な景気拡大政策を取る、というものだが、政策目標がマルチになることで、物価安定は唯一の目標ではなくなっており、この主張は見当違いである。

 二つ目は、中央銀行は金融問題への対応につき相対的優位性を持っており、独立性はその目的達成のために有るべきというものだが、この優位性は、金融以外の政策分野には当てはまらない。

 中央銀行の在り方や役割についての、時代遅れになったパラダイムをこのまま放置すれば、深刻な政治問題を引き起こすことになろう。

 過去2、30年の間、大方の中央銀行は物価安定を唯一無比の目標としてきた。中央銀行の独立性と厳格な規律は、インフレの制御を可能にしたという点で確かに成功だったといえる。特に新興市場においては、中央銀行の政策決定に対する政府の関与についての厳格な枠組みが不可欠で、中央銀行の独立性はインフレの退治のみならず制度の構築にも貢献してきた。

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