2024年6月3日(月)

スポーツ名著から読む現代史

2023年2月22日

 日本は1次ラウンドの韓国戦に続いてサブマリンの渡辺俊介が先発、韓国はエース・朴賛浩が先発し、見ごたえのある投手戦を展開した。0-0の均衡が破れたのは八回だった。

 韓国は2番手・杉内俊哉から四球と安打で1死二、三塁のチャンスをつかみ、李 鍾範が代わった藤川球児の速球をとらえて左中間を破る2点二塁打を放った。日本は九回、西岡のソロ本塁打で1点を返したが、1次ラウンドに続いて韓国に悔しい1点差負けとなった。

「数パーセント」の可能性

<王監督は試合後、全員をロッカーに集めて、選手を前にこう言った。「完全に終わったわけではない。数パーセントでも次の可能性があるんだから、絶対に気持ちを切らないでほしい」>(262頁)

 王監督の言う「数パーセント」とは、16日の2次リーグ最終戦で、0勝2敗のメキシコが1勝1敗の米国に勝ち、日本を含む3チームが1勝2敗で並ぶことが条件になる。その場合、総失点をイニング数で割る「失点率」の勝負になる。しかし、審判すら味方につけた米国がメキシコに負けるとは考えにくい。ほとんどの選手が「終わった」と感じていた。

 しかし、日本にとって奇跡とも思える事態が現実となった。メキシコが2-1で米国に勝ったのだ。3チームで最も失点の少ない日本の準決勝進出が決まった。アナハイムからサンディエゴに舞台を移す準決勝の対戦相手は、またしても韓国だった。

 さすがに同じ相手に3連敗はできない。上原の芸術的投球で韓国打線を封じて0-0で迎えた七回、4番・松中の右翼線二塁打から好機をつかんだ日本は1死後、打撃不振でスタメン落ちしていた福留が代打で起用された。

 期待に応えた福留は右翼席に値千金の2点本塁打を打ち込んだ。勢いづいた日本は、里崎智也の二塁打や代打・宮本慎也のタイムリーなどでこの回5点を奪い、八回にも多村仁の本塁打でダメ押しの6点目を追加し、6-0で韓国を破った。

 試合後、サンディエゴ市内のすし店に直行したイチローは、ようやく韓国に雪辱し、饒舌だった。<「今日は、気持ちいいですよ。ホントに、この間はシャクにさわりましたから。野球というのはケンカではないんですけど、そんな気持ちでいましたから。(略)みんな、頼もしい。素晴らしい選手ですね。完璧にはなりえないけど、ただ、(今日の試合の)後半、そういうものは表現できたんじゃないかな。力の差を見せつけるのは当然だし、容赦しないですよ」>(305頁)

 松坂でキューバ倒し初代王者に

 決勝の相手は、ドミニカ共和国を3-1で破ったキューバだった。キューバは建前上、全員がアマチュア選手で、もちろん大リーガーはいない。大リーグ機構と大リーグ選手会が米国内の大リーグファンのため、大リーガーを出身国別に分けて対戦させたらおもしろいだろうと始めたに違いないWBCだったが、決勝戦に進出した2チームの中で、大リーガーは日本のイチローと大塚の2人だけという皮肉な結果となった。

 決勝戦の日本の先発は松坂。松坂は2年前のアテネ五輪の予選リーグでキューバ戦に先発、四回に3番の強打者グリエルの強烈な打球を右腕に受けながら続投。キューバ打線を力でねじ伏せ、八回まで無失点に抑える好投を見せた。九回、キューバの必死の反撃にあい、3点を失ったが、五輪で5連敗していたキューバに初めて勝つ立役者となった。


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