ヒットメーカーの舞台裏

2009年3月27日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 なぜフィルムメーカーが? と、ユーザーの驚きをもって迎えられた女性用のスキンケア化粧品だ。蓄積されたフィルム技術から生まれたものであり、フィルムがヒトの肌と似たような組成となっていることを知ると頷ける。2007年9月の発売以降、徐々に認知度を高め、今年初めの時点で、シリーズの売上高は前年同期の6倍になった。

 開発のきっかけは、同社が04年度に着手した中期経営計画。そのなかで成長事業と位置づけられた「医療・健康」分野の強化策が打ち出されたのだ。写真用フィルムでは圧倒的なシェアとブランド力を誇ってきた同社だが、1990年代末からのデジタルカメラの普及により、主力商品は急速に細っていた。ちなみに、07年度の連結売上高に占める写真フィルムのウェートはわずか3%となっている。

牧野快彦 (ライフサイエンス事業部事業開発室 技術担当部長)

 こうした事業環境激変への対処を探る過程で、化粧品が浮上してきたのだ。研究チームの取りまとめ役として参画したライフサイエンス事業部の技術担当部長である牧野快彦(48歳)は、「当社でしかやれない、また当社の技術が生かせるという観点から使える技術を精査した結果」、到達したという。

 フィルムと肌の類似点とはこうだ―。フィルムの主成分(約50%)はたんぱく質のコラーゲンであり、肌(皮膚)も70%程度が同じ成分で構成されている。また、フィルムの厚さは、「角質層」と呼ばれる皮膚の外側部分とほぼ同じだという。

 フィルムづくりでは長年、コラーゲンが劣化するメカニズムの解明やその防止策に取り組んできた。研究チームは、共通点が多い皮膚のケアに応用できるはずと踏んだ。一方で、牧野らは写真プリント(印画紙)の技術蓄積にも着目した。

 昔の写真プリントは、年とともに色があせたものだが、これは紫外線などによる酸化が原因。ヒトの肌が年齢とともに、シワやシミができる現象と共通している。ここでも同社には、色あせ対策で蓄積した抗酸化技術の存在があった。

 「アスタリフト」シリーズの主成分は、同社が扱い慣れたコラーゲンと「アスタキサンチン」という藻から取り出した抗酸化物質だ。皮膚にコラーゲンを補うと同時に、アスタキサンチンがコラーゲンを守る。

 アスタキサンチンにはフィルムづくりでの「ナノ(1メートルの10億分の1)テクノロジー」が生かされている。近年、ライフケア成分として注目されているアスタキサンチンだが、「アスタリフト」では数十ナノメートル単位まで微細にし、肌への浸透を高めた。従来、化粧品に使われていた粒子より一ケタ小さい単位だという。

 開発初期から牧野の一番のこだわりであった「当社でしかやれない」が、こうしたところで結実している。フィルム開発に従事した研究者たちにとって、「類似点の多い化粧品は非常にイメージしやすく、違和感なく取り組めた」(牧野)というのも面白い。

 牧野は売り方でも開発時の信念を通した。社内ではイメージの点から「富士フイルム」を前面に出すと売れないという意見も強かった。だが、牧野は逆だった。「アスタリフト」は加齢による肌のトラブル対策に焦点を当てたエイジングケア製品であり、40代の女性を主ターゲットにしている。

 フィルム写真に親しんだこの年齢層には「当社のブランドへの信頼性は高く、製品の特質も説明すれば理解されやすいはず」と、踏んだのだ。パンフレットなどでフィルムと肌の類似性を訴えることで、まさに牧野の狙いどおりとなっている。若いデジカメ世代を主体とする製品なら、こうは行かなかったかもしれない。(文中敬称略)

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