「もし、希望する時間帯で働くことができなかったら、入社を諦めていました」
鋳物メーカー「能作」で事務職として働く中島里美さん(40歳)は、振り返る。中島さんは2017年、能作の業績が拡大するなか中途採用で入社した。一般的には小さな子を抱えての再就職は決して容易ではないが、中島さんは子どもが小学生と保育園児の頃に正社員採用された。
能作の本社がある富山県高岡市は、約400年の歴史がある伝統産業「高岡銅器」で知られる。1916年創業の能作は、問屋からの注文で仏具や茶道具、花器などを手掛けてきたが、約20年前から自社製品も開発。柔らかい錫の素材の性質を活かしたテーブルウエアの曲がる「KAGO」が大ヒット。次々に新商品が生まれ会社の規模が拡大している。
商品を販売する直営店舗は国内15か所、台湾に1か所。本社に併設されたカフェでは、能作の錫製食器で料理を提供し、商品の魅力を伝える。そのほか、工場見学や鋳物製作体験などを行う産業観光事業、結婚10周年を祝う「錫婚式」を手掛けるブライダル事業を展開している。
東京から富山へUターン
富山で育った中島さんは、東京の大学に進み卒業後しばらくは都内で働いていた。自宅から職場まで、電車で片道1時間半。結婚して子どもが生まれると「1日に3時間も通勤時間に使う生活より、子育て環境のいい富山で暮らそう」と思い立った。
富山県は持ち家比率や可処分所得の高さが全国トップクラス。暮らしやすい地域としての定評がある。さらに、出産・育児を理由にした離職率の低さが全国1位(3.1%)、女性(15~64歳)の有業率の高さが全国4位(74%)など、働く女性の指標も優れている。
中島さんは、夫と当時1歳半の子と一緒に富山にUターン。その後、第2子を出産した後は派遣社員として働いていたが、乳児期を過ぎると「正社員として働き、好きな英語を活かして海外事業の仕事に携わりたい」という気持ちが強くなった。