豪州戦略政策研究所(ASPI)シニア分析官のユアン・グラハムが、‘The Philippines’ high-stakes options at Second Thomas Shoal’(セカンドトーマス礁でのフィリピンのいちかばちかの選択)と題する分析記事で、南シナ海における中比対立について概要以下のとおり解説している。
8月5日、南沙諸島(スプラトリー諸島)セカンドトーマス礁の座礁船シェラマドレへの補給任務に向かったフィリピンの巡視船と補給ボートに対して中国海警局が放水銃を発射した。中国はフィリピンにセカンドトーマス礁を放棄するよう要求し続け、民兵や海警局による恥知らずな行動を止める気配は全くない。
フィリピン政府は、シェラマドレへの補給を再開する意図を明らかにしている。フィリピン海軍が沿岸警備隊から補給任務を引き継いだ場合、中国は2012年にスカボロー礁で行ったように、海上封鎖によって意図的にエスカレーションを図るかも知れない。フィリピンはこれにいかに対応できるだろうか?
米国の役割は抑止力を維持する上で極めて重要である。スカボロー礁の前例では中国が何の造作もなく実効的支配を確立したが、今回のワシントンの反応は迅速で、同盟国としての共通の目的も明らかにした声明を発出した。それでも中国は米国の抑止へのコミットを試してみたいとの誘惑に駆られるかも知れない。
米比が共同で取り得る一つの方法は、スカボロー礁への補給船のエスコートを含めた比米両国による共同海上パトロールであろう。
米比政府は、1951年相互防衛条約第3条の下で協議しているとアナウンスすることもできる。これにより、中国に対する政治的メッセージを補強し、セカンドトーマス礁はスカボロー礁の再演にはならないことをはっきり北京に印象付けることができる。
その他の国はフィリピンへの外交的サポートを表明し共同海上パトロールに貢献することを検討すべきであろう。豪州や日本はその有力な候補であるし、東南アジア諸国連合(ASEAN)でもベトナムは中国からの増大する圧力を受けており、フィリピンと似た立場に置かれている。
王毅中国外相は南シナ海での相違点を解決するための二国間対話を提唱しているが、これまでも類似の対話は悉く失敗しており、このような提案でフィリピンの心を開かせることはできないだろう。
フィリピンとしては、同国艦船への中国の嫌がらせが続くようであれば国連海洋法の国際仲裁という司法的手続きに訴える途もある。この点は米国国務省の8月5日付け声明にも言及されており、仲裁手続きが迅速に進めば4〜8週間で暫定的決定に至ることが理論的には可能である。