「死ぬまで反原発」を掲げる孫正義
再エネ投資で収益は確保

ビル・ゲイツは身銭を切って原発新技術開発を支援


山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)  常葉大学経営学部教授

住友商事地球環境部長等を経て現職。経済産業省地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会、東京商工会議所エネルギー・環境委員会委員などを務めている。近著に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム)。

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8月23日付け朝日新聞朝刊に「避けられぬ発送電分離」「原発には死ぬまで反対」とのタイトルで孫正義氏(以下敬称を省略)のインタビュー記事が掲載されていた。「原発に代わる発電手段として再生可能エネルギーを増やさなければいけない。政府の成長戦略に位置づけられるべきだ」と主張し、「欧州には各国をまたぐ送電網がある。なぜアジアでできないのか」とアジアスーパーグリッド構想を説明している。さらに、「北海道の再エネを東京に送るにも(送電線は電力会社が保有しているため)道がない。発送電分離は避けられない」としている。

孫はどんな「リスク」を取ったのか?

 その後、朝日新聞は「孫正義の3.11」として9月11日から4回の連載を行い、インタビュー内容をより詳しく伝えたが、要は、脱原発は再エネで可能。再エネの普及には日本とアジア各国を結ぶ送電網と国内の発送電分離が必要との主張だ。発電が不安定な再エネでは安定的に発電可能な原子力の代わりにはならないが、孫はアジアの各地で発電し、送電網を通して電気をやりとりすれば安定化が可能と考えているようだ。

 連載のなかで「政商」批判に対し、「誰かがリスクを取って(再エネを)事業化せねば、前に進まないのでは?」との孫の言葉が紹介されているが、この連載でも何度か指摘しているように、孫が菅直人元首相と共に導入を進めた「固定価格買い取り制度」は再生可能エネルギーの導入に伴うリスクをなくし、導入を促進する設計になっている。国債並みにリスクはない。いったい、どんなリスクを孫は取ったというのだろうか。

 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは以前から新型原子炉の開発に数千万ドルと言われる私財を投じているが、9月26日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙が、改めてビル・ゲイツの進める新型原子炉の技術に触れていた。実証炉の段階近くまで来ているようだ。リスクをとるとはこのビル・ゲイツの行動だ。以前も孫の主張の矛盾を本連載で指摘したが(「孫正義さん、電力輸入は可能ですか?」)、朝日の連載での主張を再度検証しておきたい。

利益確保が確実な再エネにしか投資しない

 朝日の連載を読み、何かおかしいと思った方もおられるかもしれない。その勘は正しい。孫の説明には二つ大きなおかしな点がある。

 一つは、死ぬまで反原発、原発に代わる設備が必要と言いながら、再エネ以外の発電設備には一切手を出さないことだ。お日様任せの太陽光発電は安定的に発電できる原発の代わりにはなりえない。太陽光が発電できない時には、昭和30、40年代に建設された火力発電所が今も電気を送っている。原発の代わりの電気と孫が主張するのであれば、再エネをバックアップする火力発電所を建てなければいけない。数十年前の設備が更新されれば、効率が向上し二酸化炭素排出量も減少する。でも、孫は確実に儲かる再エネ以外には興味がないようだ。大口需要家を対象とした自由化市場で競争する必要がある火力発電所が儲かるかどうかは、全く分からない。だから、孫は手を出さないのだろう。その上、もはや米国もドイツも諦めている再エネの成長戦略を持ち出すのは無理だ。

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著者

山本隆三(やまもと・りゅうぞう)

常葉大学経営学部教授

住友商事地球環境部長等を経て現職。経済産業省地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会、東京商工会議所エネルギー・環境委員会委員などを務めている。近著に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム)。

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