オイルロンダリングを進める国々
EUはディーゼル油を中心に石油製品の輸入を行っている。ロシアへの制裁発動前、ロシアは20%のシェアを持っていたが、昨年2月5日の石油製品の輸入禁止以降、ロシア産ディーゼル油の輸入量は大きく落ち込み、23年1月から8月の輸入数量はウクライナ侵略前の21年同期間から89%の落ち込みとなった。
インドなどがロシアの数量を埋めた。インド、中国、米国、サウジアラビア、UAEの23年1月から8月の数量は、21年同期比それぞれ4.1倍、5.3倍、3.5倍、1.3倍、2.1倍に伸びている(図-7)。
インドの数量が最も増えており、21年の月間平均11万トンが23年に45万トンになった。
ロシアに制裁を科した米国以外の国は、ロシアから安価で仕入れた原油を精製しEUに輸出することで大きな利益を上げた。
マネーロンダリング(資金洗浄)並みのオイルロンダリングだ。北アフリカの国の中にはロシア産原油あるいはディーゼル油を購入し自国産とブレンドし、EUに輸出したケースもあると報道された。
昨年1月から8月の間、サウジアラビアに次ぐ量のディーゼル油をEU向けに輸出したインドは、昨年からの中東紛争により影響を受けている。今までの儲けの構造も変わってきた。
中東紛争で高まるコスト
昨年インドの原油輸入におけるロシアシェアは35%に達し、中東諸国を抜き最大になった。インドがロシア産原油購入により2022年2月のロシアの侵略後の10か月間で節約した資金は36億ドル(約5300億円)と発表されている。
ロシア産の安い原油を元にしたビジネスでの儲け頭と言えるインドだが、ロシアが値引き額を縮小し始めた。ブルームバーグによると、11月のインドのロシア産原油購入額はバレル当たり85.90ドル、イラク産85.70ドル、サウジアラビア産93.30ドルだった。
インド石油相は値引きがなければ、他の原油を購入すると明言しているが、利益が減少する頭が痛い問題がもう一つでてきた。フーシ派が船舶を攻撃する紅海だ。
紅海経由でインド、中国に輸出されているロシア産原油が喜望峰回りとなれば、海上運賃が上昇し競争力を失う可能性がある。インド西部の製油所があるジャームナガルからオランダ・ロッテルダムまでのスエズ運河経由の航海日数24日は、42日になるので、インドからの輸出にも影響が生じ儲けの構造が大きく変わる。
世界にも大きな影響
1月11日に米英軍がイエメンの親イラン武装組織フーシ派の拠点を攻撃した。フーシ派もさらに船舶にミサイルを発射し、緊張が高まっている。
既に、石油大手である英BP、ノルウェーのエクイノールはスエズ運河経由の輸送を中止していたが、英国のシェル、カタールエナジーも中止すると発表した。
スエズ経由の物流は世界の海上輸送量の12%、LNG輸送量の8%ある。12月前半との比較で1月にスエズを通過した船舶数は44%落ち込んだ。喜望峰回りにより最大8000万バレルの石油が海上に置かれるので、エネルギー市場も影響を受ける。
海上運賃の上昇もあり、原油価格が上昇する。さらに、原油以外にも多くの商品の輸送に影響が生じ、インフレ圧力が一段と高まりそうだ。
最大の懸念は、イランの関与だ。世界の原油の5分の1、LNGの4分の1が通過するホルムズ海峡が封鎖されれば、価格上昇だけでなく、供給面の懸念も生じる。
戦争の影響は全世界に及ぶ。