アトキンスダイエット、低GIダイエットとは?
糖質制限の原型となったのが、アメリカで1970年代から知られていた「アトキンスダイエット」である。心臓病専門医のロバート・アトキンスが唱えたダイエット法で、炭水化物の摂取を厳格に制限すれば、脂質とたんぱく質がたくさん含まれるステーキ、ベーコン、卵などをたくさん食べても体重は落ちるとする。
1972年に出版された『アトキンス博士のダイエット革命』は歴史上、もっとも速いペースで売れたダイエット本になったが、当時の医学界のメインストリームは脂肪と高カロリーを悪者視していたため、猛烈な批判に遭ってしまった。
米国上院の特別委員会が1977年に発表した「合衆国の栄養目標(通称マクガバン・レポート)」は、肥満を避けるために消費カロリーと同じだけのカロリーしか摂取しないこと、複合炭水化物と天然に存在する糖分の摂取量を総カロリーの約28%から約48%に増やすこと、脂質の摂取量を総カロリーの約40%から30%に減らすことを目標に掲げている。アトキンスダイエットとは正反対に、糖質を積極的に摂るように推奨したのである。
その結果、アメリカでは肥満と糖尿病が蔓延し、それと並行するようにアトキンスダイエットは支持者を着実に増やして1990年代からブームになった。2003年にはパスタや米といった炭水化物食品の売り上げが5〜8%落ちたほどだ。アトキンスが同年、突然死したため人気は下火になったが、臨床研究は続けられて短期間でかなりの体重が減らせること、それだけでなく全身の代謝が改善すること、血糖値が大きく下がることなどが確認された。
日本では『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』(同朋社)が2000年に、『アトキンス式低炭水化物ダイエット』(河出書房新社)が05年に刊行されたが、大きな話題にはならなかった。かわりに血糖値をコントロールするダイエットとして、糖質制限に先行して実践者を集めたのは「低インシュリンダイエット」だった。
あらためて、インスリン(インシュリン)とは、すい臓から分泌されて血糖値を一定に保つ働きをする唯一のホルモンである。食べ物が体に入って消化吸収されると、炭水化物(糖質)はブドウ糖に分解されて、血液中に入る。これが血糖だ。血糖値が上がると、分泌されたインスリンの働きでブドウ糖は細胞などに送り込まれてエネルギーとして利用され、血糖値は下がる。
一方、糖質をたくさん摂ると、インスリンもたくさん分泌されて、エネルギーとして使われずに余ったブドウ糖を脂肪として体内に蓄える働きをする。これが、太るということだ。このように、インスリンは体が栄養をうまく利用するために不可欠なホルモンだが、過剰分泌が肥満を引き起こすため「肥満ホルモン」という不名誉なあだ名がついている。
インスリンが足りない、または働きが悪くなって血液中にブドウ糖が多く残り、血糖値が高い状態が慢性的に続くのが糖尿病。神経障害、網膜症、腎症などの合併症を引き起こし、ひどくなると失明や足の切断、人工透析につながる。命を脅かす動脈硬化や脳卒中のリスクも高める恐い病気だ。血糖値の上がり下がりの大きさは、認知機能の低下に関わっていることも分かっている。
1981年、トロント大学のデヴィッド・ジェンキンス教授が、食品ごとに食後血糖値の上昇を「グリセミック指数(GI値)」として数値化した。ブドウ糖(グルコース)を100として、これを基準に食品の血糖値への影響を数値で表すもので、GI値が高い食品ほど血糖値が上がりやすく、インスリンの分泌を促進する、つまりは脂肪合成を促進すると考えた。