もっぱら女性が行うものだったダイエットに男性が積極的に参入したのは、メタボ人口の増加にともなって、実際に多くの男性が糖尿病のリスクに直面しているという、切実な理由があった。
なお、糖尿病には、インスリンを作るすい臓の細胞が破壊され、インスリンが分泌できなくなる1型糖尿病と、生活習慣や遺伝的な影響でインスリンが十分に分泌されなくなったり、働きが低下したりすることで起こる2型糖尿病がある。日本人の糖尿病の約95%は2型で、本記事の糖尿病に関する記述はすべて2型に関してである。
国民健康・栄養調査によると、男性(20歳以上)の「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、1997年が9.9%だったのに対し、2002年は12.8%、2007年は15.3%、2012年は15.2%、2016年は16.3%、2019年は19.7%と、着実に上がっている。これに「糖尿病の可能性が否定できない者」の予備軍を加えると、4人に1人以上が該当する。
70歳以上では、4人に1人が糖尿病患者だ。もはや糖尿病は、日本男性の国民病なのである。
なお、女性の「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、1997年7.1%、2002年6.5%、2007年7.3%、2012年8.7%、2016年9.3%、2019年は10.8%。男性ほど増加していない。それでも70歳以上では6人に1人が糖尿病患者だから、深刻さはかわらない。
さしせまった糖尿病リスクとメタボに対して、即効性が高く、確実に痩せられて血糖値が下がる驚異のダイエット法として登場したのが「糖質制限」である。
以前は男性がダイエットにいそしむのは、どこか体裁悪く気恥ずかしくて、人には大きな声でいえなかった。ところが、医師が提唱した糖質制限には、男性がダイエットに抱きがちだった偏見や羞恥心を打ち砕く医学的な理論武装がそなわっていた。同じ男性主導型でも、レコーディングダイエットや南雲式1日1食ダイエットよりも、さらに説得力のある理屈がそろっているところが魅力だった。
糖質制限の台頭で、はじめて男性たちは堂々とカミングアウトし、ダイエットに専心することができるようになった。そうするうちに女性にも広がり、いまでは「糖質オフ」「ロカボ」など、いろいろな呼び方で広く普及した。
ダイエットは、はやりすたりが激しく、大半が話題になったと思ったら、あっという間に消えている。そんななか、糖質制限のブームは長く持続して、24年現在すでに「現代人の常識」になった感すらある。21世紀になってもっとも繁栄したダイエット法である。