2024年5月19日(日)

ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう

2024年2月27日

15年かけて築き、分かった
多様な人材がいることの意義

 12年からは地元住民とともに、国の特別天然記念物であるオオサンショウウオが生息する川の清掃活動を開始し、その後も市内の小学校で交通安全教室を実施するなど、地域課題の改善活動にも力を入れてきた。

 「運輸業は目に見える製品・商品がないため、デザイン性や機能性で勝負できないことに頭を悩ませていました。ただ、地域に根差した中小企業だということもあり、だからこそその人たちからの信頼を得られるよう、地域課題に挑戦しようと考えたのです」(鍋嶋社長)

 近年、この活動の幅が広がっているという。鍋嶋社長は「女性に限らず多様な人材を受け入れてきたことのメリットを、いっそう実感しています」と話す。

 「多様な人材がいるということは、その分、地域が抱える課題をとらえる視点やそれに対するアプローチも多様だということ。社員からの積極的な提案で、地域住民の健康寿命を延ばすことを目的とした無料健康相談『おはなし広場』や、地元住民向けのヨガ・健康太極拳教室などの運営、市役所や地元警察、社会福祉協議会と連携した『特殊詐欺なくし隊』の結成によるチラシ配布にまで手を広げ、住みやすいまちづくりに微力ながら貢献できるようになりました」

 こうした活動が評価され、昨年には市と社会福祉協議会との間で地域の健康活動の実施に関する三者協定も締結した。

 大橋運輸の変化は地域住民も感じ取っている。近隣に居を構え、約50年にわたり大橋運輸を見てきた70代の女性は「当時は閉鎖的で他人を寄せ付けない雰囲気がありました。それが最近はあいさつもしてくれるし、草刈りをしている日もあって驚きます。健康セミナーにも参加させてもらっていますが、昔とは全く違う会社になったというか、本当に〝脱皮〟したみたいに変わったんですよ」と嬉しそうに話してくれた。

「私たちは地域課題に挑戦する」というスローガンを掲げ、さまざまな地域課題に取り組む大橋運輸の社員たち。中央の写真・左が鍋嶋社長(上段 WEDGE・下段 OHASHI TRANSPORT)

 鍋嶋社長は「地域活動で得られた信頼を基盤に、引っ越しや遺品整理・生前整理など、BtoC向けのサービスの依頼が増えました。社員に対する健康経営の予算は当初の10倍に増やしたけれど、業績も利益率も向上しています。それだけでなく、今では地域課題に挑戦するという方向性に共感し、県外から応募してくれる人もいます。おかげで採用の課題は軽減できました」と手応えを語る。

 鍋嶋社長は最後にこう続けた。

 「『地域活動に力を入れている』と言うと、『余裕があるんですね』と返されることがあります。でも、決してそうではありません。地域活動は漁業のようなもので、稚魚を放流しても必ずしも成魚になる保証はない。それでも地道に取り組むことで数字以上に大きなものが得られるということが、最近ようやく分かってきたんです。私は中小企業こそ、多様な人材を生かして地域課題に取り組むべきだと信じています」

   
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Wedge 2024年3月号より
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう

「育児休暇や時短勤務を活用して子育てをするのは『女性』の役目」「残業も厭わず働き、成果を出す『女性』は立派だ」─。働く女性が珍しい存在ではなくなった昨今でも、こうした固定観念を持つ人は多いのではないか。 今や女性の就業者数は3000万人を上回り、男性の就業者数との差は縮小傾向にある。こうした中、経済界を中心に、多くの組織が「女性活躍」や「多様性」の重視を声高に訴え始めている。

内閣府の世論調査(2022年)では、約79%が「男性の方が優遇されている」と回答したほか、民間企業における管理職相当の女性の割合は、課長級で約14%、部長級では8%まで下がる。また、正社員の賃金はピーク時で月額約12万円の開きがある。政界でも、国会議員に占める女性の割合は衆参両院で16%(23年秋時点)と国際的に見ても極めて低い。

女性たちの声に耳を傾けると、その多くから「日常生活や職場でアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を感じることがある」という声があがり、男性優位な社会での生きづらさを吐露した。 

3月8日は女性の生き方を考える「国際女性デー」を前に、歴史を踏まえた上での日本の現在地を見つめるとともに、多様性・多元性のある社会の実現には何が必要なのかを考えたい。 


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