2024年11月1日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年3月19日

 一方、トランプが大統領に選出されるか否かを問わず、米国が欧州から手を引いていくことは不可避だと見る向きもある。ドイツの政治学者マクシミリアン・テルハレは、ドイツは、米国が現在、運用から外している核弾頭1000発を購入するよう持ちかけるべきだと主張している。

 これを英仏の保有する核弾頭と合わせれば約1550発となるので、ロシアから攻撃された場合に使用する計画を策定してNATOの領域内に配置すれば良いと考える。テルハレは、NATOの欧州核抑止力は、ドイツが核兵器の指揮機構に加わるのでなければ信憑性を持たないとの考えである。

 ドイツが核保有国となることについては、法的にも、実際上も、政治的にも、大きな障害がある。ドイツは核不拡散条約(NPT)によって核兵器を放棄しており、また、1990年9月に米、英、仏、ソ連の四カ国と締結した条約(ドイツ統一に関する最終規定条約)においてそれを再確認している。

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各国の施策に付帯する米国の姿

 上記ウォールストリート・ジャーナル紙で紹介している欧州防衛のための核抑止力の議論に関しては、第一に、米国の核戦力を中心とする現状の仕組み、第二に、それへの代替策として、米国に頼らない欧州独自の核抑止力を英仏の核戦力を活用しつつ構築できないかという構想、第三に、現状からの大きな飛躍となるが、ドイツの核保有という考え方がある。

 現在、欧州では、米国に頼ることなく自らを防衛することができるかが盛んに議論されるようになっているが、その際、難度の高い課題が核抑止をどう確保するかである。欧州では、英仏という二つの核戦力を持つ国があるが、いずれについても米国に頼らない欧州防衛のための核抑止力とすることについては大きな課題がある。

 英国の核弾頭は総数225、配備数120とみられているが、核戦力の中身は、戦略原潜に搭載する弾道ミサイル(トライデント)である。これは、NATOの核戦力に組み込まれており、英国政府が「究極的な国益」が危険にさらされていると判断する場合には独自の判断で運用できることとされている。一方、英国の核戦力は、初期の段階から米国の支援と協力を得て成り立っており、米国抜きでどれだけ機能するかには大きな疑問符がつく。


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