2024年4月30日(火)

BBC News

2024年4月16日

ドナルド・トランプ前米大統領が不倫相手に「口止め料」を払ったことについて業務記録に虚偽記載をしたとされる事件について、ニューヨーク市内の裁判所で15日、初公判が開かれ、前大統領が被告として出廷した。アメリカの大統領経験者が刑事裁判の被告人になるのは、史上初めて。

起訴状によると、トランプ前大統領は2016年大統領選の最中に、かつて不倫関係にあったとされる元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ(本名ステファニー・クリフォード)氏に13万ドル(約2千万円)の「口止め料」を支払うよう、当時の顧問弁護士マイケル・コーエン氏に指示し、これを隠すために業務記録に虚偽の記載をした。コーエン氏はこの事件に関連しすでに連邦議会への偽証、選挙資金法違反などの罪で有罪となり、服役した。

検察側は、口止め料を払いその事実を業務記録で隠したのは、2016年大統領選に「違法な影響」を与えるためだったと主張している。

トランプ前大統領は無実を主張している。

トランプ氏はほかにも3件の刑事事件で起訴されているが、11月の大統領選までに評決が出るのは、この「口止め料」事件だけになる可能性もある。

もしこの裁判で有罪となった場合、主要政党の大統領候補が刑事事件の犯人だという前代未聞の事態になるが、法律上は出馬を妨げられない。

陪審員の選任

初公判は、市民から12人の陪審員を選ぶ手続きで始まった。

陪審員の候補としてマンハッタンの州地裁に呼ばれた96人のうち60人が、自分は偏りなく判断することができないと早々に認め、辞退した。

18人の陪審員候補は、どのようにニュースを得ているか、どのような本を読んでいるか、トランプ前大統領の支援集会に参加したことがあるか、前大統領の本を読んだことがあるかなどを一人一人質問された。

一人の女性は「ドナルド・トランプ前大統領について、あるいは彼が現在、大統領候補だということについて、あなたは何か強い意見や確信を抱いていて、それがあなたが公平で偏りのない陪審員になることを妨げたりしますか」と質問された。

この女性は「はい」とだけ答え、陪審員候補から除外された。ただし前大統領の弁護団は当初、理由を説明しないまま、この女性を除外することに抗議した。

この裁判に対する注目度がきわめて高いため、選ばれる12人の陪審員の身元は公表されない。ただし、弁護団と検察側には身元は明かされる。

陪審員を辞退して裁判所を後にした別の女性は、「自分にはとても無理」だと話していた。

法廷内では静か

前大統領は法廷内で険しい表情で、弁護団と低い声で言葉を交わすにとどまった。

ホアン・マーシャン裁判長に、法廷内で求められる行動について確認を求められ、「はい」と3回答えた以外は、法廷内での発言はなかった。

しかし裁判所の外に出ると、前大統領はこの裁判が「ばかげた」もので「アメリカへの攻撃だ」と非難した。

裁判に関する前大統領のさまざまな発言は、公判中もしばし議論の対象になった。

マーシャン判事はすでに前大統領に対して、裁判に関係する人についてソーシャルメディアなどで公に発言してはならないと、禁止命令を出している。それにもかかわらず前大統領がソーシャルメディアで判事の娘を攻撃したため、禁止命令の対象は裁判関係者の親族にも拡大された。

マンハッタン地区検察官事務所は、前大統領が自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に掲載した三つの投稿が、判事による禁止命令に違反していると主張し、罰金3000ドルを科すよう求めた。問題となった投稿の一つでトランプ前大統領は、この裁判で証言する見通しのコーエン氏を「名誉を失った弁護士で犯罪者」と呼んだ。

マーシャン判事は、この件について判断するため24日に公判を開くと告げた。

裁判所の外には数十人のトランプ支持者が集まり、前大統領を声高に応援し続けた。アメリカ国歌を何時間にもわたりフルートで吹き続ける男性や、金髪のかつらと赤いネクタイで前大統領に扮(ふん)した支持者もいた。

他方で「さっさとトランプを有罪にしろ」と書かれた横断幕を掲げる人もいた。

最高裁出廷のため欠席したいと

このニューヨーク州での刑事裁判のほか、2020年大統領選で現大統領のジョー・バイデン氏に敗れたのを覆そうとしたとされる事件と、大統領退任後に機密文書を不正に扱ったとされる事件でも、トランプ前大統領は連邦法違反の刑事責任が問われている。

前大統領の弁護団はこの日の法廷で、選挙結果を覆そうとしたとされる事件について免責特権を連邦最高裁で主張するため、ニューヨークでの25日の公判を欠席したいと求めた。これに対してマーシャン判事は、「最高裁で陳述するのはおおごとですが、ニューヨーク地裁での陳述もおおごとです。来週、またここでお会いしましょう」と要求を退けた。

前大統領はこのほか今年2月、不動産価値の不正なつり上げをニューヨーク州地裁によって認定され、賠償金4億6400万ドルの支払いを命じられた。これについて前大統領は控訴し、大幅に減額された保証金をすでに納付している。

今年1月にはニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁で26日、大統領在任中の2019年にコラムニスト、E・ジーン・キャロル氏を中傷しその名誉を毀損(きそん)したことについて、計8330万ドル(約123億4000万円)の損害賠償を支払うよう、陪審団が評決を出した。連邦地裁は昨年5月の民事裁判ですでに、前大統領が1990年代にキャロル氏を性的に暴行したと認定していた。

(英語記事 Trump trial: Dozens of jurors rejected as they say they cannot be impartial

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ckkeyzxwzrxo


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