2024年5月20日(月)

BBC News

2024年5月10日

マット・マグラス、マーク・ポインティング、ジャスティン・ロウラット、BBCニュース気候・科学

世界中の平均海面水温がこの1年の間、連日のように更新されていたことがBBCの分析で明らかになった。水温の上昇に拍車をかけたのは気候変動だ。

この時期の最高水温を更新した日数は、50日近くに達した。その更新幅は、衛星観測開始以来で最大だった。

水温上昇の主な原因は地球温暖化ガスだが、自然に起こる気象現象のエルニーニョも海水の温度が上がる一因となっている。

超高温化した海は海洋生物に大打撃を与え、サンゴの白化の新たな波を引き起こした。

BBCは、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスのデータをもとに分析を行った。

同サービスはまた、先月が4月の世界平均気温として観測史上最も暖かかったともしている。月別の記録更新は11カ月連続となった。

気候変動に関しては何十年もの間、世界中の海洋が地球の「免罪符」となってきた。

海が人類が排出する二酸化炭素の約4分の1を吸収するだけでなく、余分な熱の約90%をも吸収するからだ。

しかしこの1年、とりわけ海面水温が高くなったことで世界の海洋が大規模な吸収量を維持するのが難しくなっていることが、かつてないほど深刻なデータで示された。

2023年3月以降、世界の平均海面温度は長期的な平年値をますます上回るようになり、同年8月には過去最高を記録した。

コペルニクス気候変動サービスのデータによると、平均海面温度は今年2月と3月に摂氏21.09度に達するなど、ここ数カ月、途切れることなく上昇している。

2023年5月4日からのすべての日で、この時期の最高水温を更新している。更新幅が非常に大きい日もある。

同サービスのデータをBBCが分析したところ、この期間のうち約47日は、その日の記録を少なくとも0.3度以上更新した。

衛星観測開始前は、これほど大きな更新幅は記録されていない。

更新幅が最も大きかったのは2023年8月23日、2024年1月3日、2024年1月5日で、それまでの最高気温を約0.34度上回った。

「これほどの熱が海に流れ込み、いくつかの地点では我々が考えていた以上に温暖化が進んでいるという事実は、大きな懸念材料だ」と、イギリス南極観測所のマイク・メレディス教授は言う。

「私たちがまったく望んでいない海域に、こうした環境が移動していることを示す兆候だ。このまま進んでいけば、深刻な結果を招くことになる」

海洋生物への甚大な影響

最近の研究によれば、このような人為的な海洋温暖化は、世界中の海洋生物に多大な影響をもたらしており、海水温の季節的なサイクルさえも変化させている可能性があるという。

世界的なサンゴの大規模白化はおそらく、近年の温暖化の影響を最も受けた結果の表れだろう。

海の生物の大事な成育場として機能するサンゴ礁は、生息海域の水温が高くなりすぎると白くなり死んでしまう。サンゴは海洋生態系にとって不可欠な要素で、全海洋種の約4分の1がサンゴ礁で生息している。

異常に暖かい海水は、人間に広く愛されている海洋生物の一つにも直接的な被害を与えている可能性がある。地球上で一番寒さが厳しい南極大陸に生息する皇帝ペンギンのことだ。

「皇帝ペンギンのひなが、きちんと巣立つ前に海氷が崩れ、大量のひなが溺死した例もある」と、メレディス教授は言う。

「皇帝ペンギンは気候変動によって絶滅の危機に瀕しており、海氷と海水温の問題がこれに強く関与している」

イギリスでは海水温の上昇により、フジツボ科など、多数の生物が沿岸地域から完全に姿を消した。

「変化のスピードがあまりに速すぎて(技術などの)進化が追いつかないところが、気候変動の問題点だ」と英リヴァプール大学の海洋生物学者ノヴァ・ミエシュコフスカ博士は指摘する。

英ウェールズの海岸では、アベリストウィス大学のチームがカーディガン湾の海洋生物の変化を追跡している。これに用いている、警察が犯罪現場で使うのと同じテクノロジーだ。

水のサンプルからDNAの痕跡を採取したところ、いくつかの外来生物が繁殖していることが示されている。この中には、日本由来と考えられる、海底にじゅうたんを敷き詰めたように成長するホヤなどが含まれる。

「外来生物は、新たに定着した地域にもともと生息する在来生物の成長を妨げる」と、アベリストウィス大学の生命科学部責任者、イアン・バーバー教授は言う。「(外来生物は)この地域の環境下では非常によく成長する。海底の広範な領域を占拠してしまう可能性がある」。

侵略性の強い種は、地球温暖化と海水温の上昇にさらに強く反応しているようだと、同教授は言う。

エルニーニョの影響

世界中の海に昨年、かつてない規模の影響をもたらした重要な要因の一つが、エルニーニョ現象だ。この現象は人為的な温暖化ガスの排出量を増加させた。

エルニーニョが発生すると太平洋の海面水温は上昇する。その結果、世界の平均海面水温は押し上げられる。

エルニーニョは2023年6月、海面水温が低下するラニーニャ現象が長く続いた後に発生し、同年12月にピークに達した。

通常はエルニーニョの影響を受けないほかの海盆も記録的な熱波に見舞われ、科学者たちは何が起きているのかを正確に解明しようとした。

「大西洋は例年より暖かい状態が続いている。これは通常、エルニーニョから連想されるパターンではない。どういうわけか、何かが違う」と、コペルニクス気候変動サービスのカルロ・ブオンテンポ所長は言う。

この暑さは大西洋熱帯地域を含む多くの海盆で今も続いている。

暖かい海は熱帯性低気圧に余分なエネルギーを与え、被害をもたらす恐れのあるハリケーンシーズンに拍車をかける可能性がある。

「大西洋熱帯地域の多くの場所では海水温が例年より暖かいままで、熱帯サイクロンの主な発生域となっている」と、ブオンテンポ博士は説明する。

「大西洋の海面水温は、1年周期で見ると1カ月近く早く進んでいる(中略)なのでこの地域を注視しなければならない」

こうした短期的な影響のほかにも、社会が適応しなくてはならない長期的な影響もあると、研究者たちは警鐘を鳴らしている。

例えば、氷床の融解と深海の温暖化は今後数世紀にわたって海面上昇を加速し続ける可能性が高い。

「私たちは気候変動について議論する際に表面的な変化に話を限定しがちだ。そこが自分たちが暮らしている場所なので」と、メルカトル・オーシャン・インターナショナルの研究者アンジェリーク・メレ博士は述べた。

「しかし、何世紀、何千年にもわたり(気候の)変化をもたらしている(地球温暖化の)側面の一つは深海だ」

だからといって、二酸化炭素排出量の削減を諦める理由にはならないと、メレ博士は強調する。

「私たちの行動次第で温暖化のスピードを抑え、温暖化と海面上昇の全体的な変化の幅を小さくすることはできる」

(グラフィック製作:アーワン・リヴォルト、マスキーン・リダー、マーク・ポインティング)

(英語記事 Climate change: World's oceans suffer from record-breaking year of heat

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cqvn6e9gdl0o


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