この熱き人々

2013年12月13日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

目の前で起きた「奇跡」──マジックに心を奪われマジシャンの道へ。あの驚きと感動を多くの人に届けたい。ひたむきに追い続けた夢はイリュージョンという空間の魔術に結実、さまざまなショーの舞台で奇跡を起こしている。

非日常空間を創出

 開演の瞬間。場内が暗転し、観客の視線がいっせいに緞帳の上がった舞台に注がれる。客席が最も緊張する瞬間に、何やら白い布がモコモコと膨れ上がったかと思うと、まるで妖怪一反木綿のようにすさまじいスピードで空間を飛び回る。「えっ?」「何、あれ!」「うそー」という声が広がったタイミングで、舞台上では空中に浮かび上がるようにアーティストが登場する。「ウォーッ!」というどよめきと拍手に包まれて、客席が引きずる日常感覚の名残は一気に非日常の世界へ飛び上がり、鮮やかなショーの空間へと意識が同化していく。

 客の心を瞬間的につかんで引き揚げる幻想的な空間を生み出しているのは、電動機材とコンピューターと照明を駆使したフライング・ウエーブ・システムという仕掛けであり、それを生み出したのがデューク松山であることを知っている人はほとんどいない。

 デューク松山。2000(平成12)年から11年まで、NHK紅白歌合戦で機械仕掛けの大型舞台装置に限りなく合体した巨大な小林幸子の衣装を出現させた人といえば、「ああ、あの凄いの造った人……」と仕事の一端がイメージできる。

 13年の夏は、AKB48ドームツアーの舞台特殊機構の設計・制作にあたった。

 「お客様の“つかみ”になる部分を依頼されることが多いです。求められるのはマジシャンのいないマジカルな空間を創り上げること。ありえない不思議な効果を生み出すことで、オーッと歓声が上がる。空間そのものをマジカルにしてしまえば、登場するアーティストはみんなマジシャンになれる」

 そう語るデューク松山の風貌は、マジシャンのようでもあり、仕掛けを考えて驚かすいたずらっ子のようでもあり、危険を伴う現場を仕切るシビアな監督のようでもあり、技術者のようでもある。訪ねた場所は、千葉県東金市。周囲に特産の南京豆畑が広がる閑静な田園風景の中に巨大な倉庫のような建物が忽然と姿を見せる。大型化した3D-SFXの製造工場でありスタジオでもあるという。華やかさを演出するデューク松山の仕事の足元を固める、もうひとつの地味な現場ということになる。

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