東京で最高齢 売れっ子現役芸者
「芸の道どこまでも」

浅草ゆう子(芸者)


吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

この熱き人々

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唄や踊りが日常だった芸人の家に生まれ、13歳で花柳界へ。いま、90歳。東京で最高齢の売れっ子現役芸者だ。戦前、戦後と激動の年月を生き抜き、過去を振り返るより一歩でも前に進みたいと精進を重ねる。背筋を伸ばしたまっすぐな生き方に、迷いはない。

3歳で初舞台

 浅草花柳界は、浅草観音堂の裏手に広がる。言問(こととい)通りから柳通りに入ると点在する料亭や浅草見番に花街の面影が残る。雨の中、涼やかな水色の着物に白と紺の帯を締め、薄紫の道行を羽織った浅草ゆう子が見番の事務室に入ってくると、地味な室内が華やぐ。きれいにセットされた豊かな髪、小柄だけれど背筋をピリッと伸ばした姿が若々しい。

 思わず「お元気ですねえ」と感嘆の言葉が漏れた。すかさず返ってきたのは、「ええ、まだ90歳ですから」。軽やかな切り返しにまた感嘆。13歳で花柳界に飛び込んで77年。この世界で生き抜いてきた年月が、さり気ない風格となって滲み出ている。

 「朝起きたら、まずお抹茶で一服してから朝風呂。今日は何するんだっけ、どこに行くんだっけと予定を考え、どの着物にしようか、帯はどれを合わせようか考えるの。楽しいわよ。そしてお化粧をして口紅を引く。気持ちがシャキッとするし、何よりおしゃれ心がなくなると年寄りは汚くなっちゃう。それがイヤなの」

 予定がなくても、急にお客さんから電話があるかもしれない。観劇などのお誘いもあるかもしれない。そんな時にすぐに対応できるように、常にきちんと居ずまいを正して暮らす。つい面倒くさいと流されて、そこから生活が崩れていくことを自らに許さない。

 現在息子夫婦と孫と2世帯住宅に暮らしているが、自分の生活の場はあくまで独立した2階。そこに稽古場もあり、現在も24人の弟子が小唄を習いに来ている。

 師匠の唄を是非拝聴したい。お座敷でもないのに、芸者さんにそのようなことをお願いしていいのかどうか……そんな躊躇(ちゅうちょ)を見透かしたように間髪を入れずに言う。

 「いいわよ。後ほどお聴かせします。私は、まず芸は出し惜しみしないね。聴きたいと言われればすぐ唄っちゃう。とにかく唄も三味線も踊りも大好きだから」

 早口である。会話に間があくことがない上に、言葉に勢いがあって江戸っ子の気風のよさがびんびんと伝わってくる。

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著者

吉永みち子(よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

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