ロシアとエストニアの領土問題解決
北方領土への影響は?


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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2月18日、ソチ五輪が開催されていた最中にロシアはエストニア(ラトビア、リトアニアと共に、バルト三国と呼ばれる)との懸案事項であった領土問題を解決した。2012年の拙稿(「ロシア・ウクライナ領土問題の解決 北方領土にヒントは得られるか?」)でも述べたように、近年、ロシアは領土問題を次々に解決してきた。そして、今回のエストニアとの合意の結果、ロシアが抱える領土問題は日本とのもの、つまり北方領土問題だけとなったのだ。

ロシアの実効支配をほぼ認める

 両国の領土問題解決の概要は以下の通りである。2月18日、ロシアのラブロフ外相とエストニアのパエト外相はモスクワで国境画定条約に調印したが、その内容は、旧ソ連時代の境界線に約1平方キロメートルの土地を交換する微修正を加えたものの、ロシアの実効支配をほぼ全面的に追認するものであり、条約案には領土要求の相互放棄が明記された。両国議会の批准を経て発効するが、エストニア議会は同内容に同意しており、批准する見通しであるため、年内の発効は間違いないと考えられている。

 本合意の達成には、23年を要した。両国の係争地域、ペツェリ地区の面積は約2300㎢で、3万数千人が居住しているが、その多くはロシア人だ。これまで、エストニアは現国境線について、ソ連への併合の結果、旧ロシア共和国との間で、独立時代よりも西寄りの国境を強要されたと主張と主張し、1920年のタルトゥ条約(これにより、ソ連がエストニアの独立を承認した)を根拠とし、領土の奪還を求めていた。この根底にある問題が両国間の歴史認識の違いである。エストニアはソ連に編入されたのは一方的な併合だと主張するのに対し、ロシア側はエストニアが「自発的」にソ連に加入したことで、同条約は無効になったという認識を持っている。

 それでも、エストニアのイニシアティブで、両国は2012年秋に条約交渉を再開。前回の教訓を踏まえ、相互に領土要求を放棄するという文言を入れ、歴史問題には触れないことで合意に達したのだった。

 実は、両国は2005年に、ロシアの国境線の主張をのむ形で、つまり現在の国境線をほぼ踏襲する内容で条約に署名していた。その背景には、同地に対するロシアの実効支配を覆すのは非現実的だとする意見が強まったことや、EUがロシアとの国境画定を急ぐよう求めていたことがある。しかし、世論におされたエストニア議会が、批准の際に、付帯文書で「第2次大戦でソ連に不法に併合された」と追記し、タルトゥ条約の有効性を押し出してきたため、ロシアが合意を破棄したという経緯もあった。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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