ロシアにとって譲れない一線、ウクライナ
プーチンの思惑

軍事力の近代化でも最重要正面を西部に据えるロシア


小泉悠 (こいずみ・ゆう)  財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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予想外の「軍事介入」

 2月28日、クリミアの空港、主要な道路、通信・放送施設などが「謎の武装勢力」に次々と占拠され始めた。装備や軍服の特徴から、その正体がロシア軍であることはほぼ明らかであった。さらにクリミアにはロシア軍の増援を載せた大型輸送機や揚陸艦、民間フェリーなどが次々と到着し、現在までにその規模は2万〜3万人程度(危機前は1万人程度と見られていた)まで膨れあがっている。

 当時、ウクライナでは、前年から続いてきた反ヤヌコヴィチ政権デモが過激化して多数の死者を出すまでになり、ヤヌコヴィチ大統領がロシアへ逃れたことで新たに暫定政府が樹立されるという事態になっていた。こうした中で、歴史的にロシアとの結びつきが強いクリミア半島のクリミア自治共和国議会が「新政権を認めない」とする事実上の独立宣言を出し(3月11日正式に独立を宣言)、親ロシア派の住民が議会を占拠するなど緊張が高まっていた。

 そこで注目されたのが、ロシアによる軍事介入の可能性であったわけだが、当時、筆者のまわりの専門家や筆者自身も、その可能性は低いと見ていた。軍事力行使を行えばウクライナは単なる政情不安どころではなく内戦に陥ってしまい、NATOとの武力紛争さえ考慮せざるを得なくなる。いかにキエフの新政権が気に入らないにせよ、ロシアがそこまですることはないだろう…というのが大方の見解であった。

 ところがロシアは完全にその裏をかいた。国籍を隠すことで曖昧な形でクリミア中に浸透し、気付いてみればクリミア半島がロシア軍の占領下だった…という戦術をとったのである。しかもこの間、一発の銃声も轟くことは無く、要した時間はわずかに半日であった。

 ことの是非は別として、全く見事というほかない。

ウクライナの戦略的重要性

 では、多くの予想に反してロシアがクリミアへのロシア軍投入を決断した理由はなんだろうか。

 クリミアを含めたウクライナはロシアにとって死活的とも言える重要性を持つ。産業面では、ウクライナの航空宇宙産業はロシアと深いつながりを持ち、経済面では対欧州ガス輸出用の主力パイプラインが通っている。

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「WEDGE REPORT」

著者

小泉悠(こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

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