予想外の「軍事介入」
2月28日、クリミアの空港、主要な道路、通信・放送施設などが「謎の武装勢力」に次々と占拠され始めた。装備や軍服の特徴から、その正体がロシア軍であることはほぼ明らかであった。さらにクリミアにはロシア軍の増援を載せた大型輸送機や揚陸艦、民間フェリーなどが次々と到着し、現在までにその規模は2万〜3万人程度(危機前は1万人程度と見られていた)まで膨れあがっている。
当時、ウクライナでは、前年から続いてきた反ヤヌコヴィチ政権デモが過激化して多数の死者を出すまでになり、ヤヌコヴィチ大統領がロシアへ逃れたことで新たに暫定政府が樹立されるという事態になっていた。こうした中で、歴史的にロシアとの結びつきが強いクリミア半島のクリミア自治共和国議会が「新政権を認めない」とする事実上の独立宣言を出し(3月11日正式に独立を宣言)、親ロシア派の住民が議会を占拠するなど緊張が高まっていた。
そこで注目されたのが、ロシアによる軍事介入の可能性であったわけだが、当時、筆者のまわりの専門家や筆者自身も、その可能性は低いと見ていた。軍事力行使を行えばウクライナは単なる政情不安どころではなく内戦に陥ってしまい、NATOとの武力紛争さえ考慮せざるを得なくなる。いかにキエフの新政権が気に入らないにせよ、ロシアがそこまですることはないだろう…というのが大方の見解であった。
ところがロシアは完全にその裏をかいた。国籍を隠すことで曖昧な形でクリミア中に浸透し、気付いてみればクリミア半島がロシア軍の占領下だった…という戦術をとったのである。しかもこの間、一発の銃声も轟くことは無く、要した時間はわずかに半日であった。
ことの是非は別として、全く見事というほかない。
ウクライナの戦略的重要性
では、多くの予想に反してロシアがクリミアへのロシア軍投入を決断した理由はなんだろうか。
クリミアを含めたウクライナはロシアにとって死活的とも言える重要性を持つ。産業面では、ウクライナの航空宇宙産業はロシアと深いつながりを持ち、経済面では対欧州ガス輸出用の主力パイプラインが通っている。