2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2014年3月14日

プーチン大統領の思惑は

 ロシア指導部には、冷戦後、ロシアが冷戦の「敗者」として扱われ、欧州の安全保障秩序がロシアに諮られることなく勝手に決められていったり、ロシアの勢力圏内にEUやNATOを一方的に拡大してきたりするような動きに対して強い不満が鬱積している。

 特に旧東側諸国やソ連攻勢諸国で発生した一連の体制転換(いわゆる「カラー革命」)を米国務省等が支援している事に対して、ロシアは強い不快感と脅威認識を示している。プーチン大統領は2012年に発表した国防政策についての論文で、一連のカラー革命や「アラブの春」を「焚き付けられた紛争」と表現したほか、2013年に旧ソ連の同盟国と合同で実施した平和維持演習では「強力な政治・経済的同盟に支援された武装勢力が資源利権を確保するために村を占拠した」という想定が導入された。今回3月4日にプーチン大統領が行った記者会見でも、キエフでの政変を「西側の支援を得た武力クーデター」と言及したことは記憶に新しい。

 要するにプーチン大統領の目には、西側が様々な手を使ってロシアの勢力圏や国益を侵そうとしているように映っているのであろう(しかもそれは決して無根拠なものでもない)。

 中でもプーチン大統領が絶対に譲れない一線と考えているのは、第2次世界大戦前からソ連に含まれていた地域である。東欧の旧社会主義国や第2次世界大戦後にソ連に併合されたバルト三国については、ロシアは抵抗を示しつつも「西側の拡大」を認めてきたが、ウクライナやグルジアのような伝統的勢力圏については話が別である。そもそも2008年のグルジア戦争も、グルジアとウクライナに対してNATOがMAP(加盟行動計画)を発出し、将来的なNATO加盟を認める決定を下したことが遠因であった。

 今回のウクライナ問題にしても、EUとの連合協定程度ならばまだしも、明らかに反露的な新政権が成立すればそのままNATO加盟、ひいてはEU加盟へと続いていくことが明らかであり、ロシアとしては受け入れられなかったものと思われる。しかもロシアは2004年のオレンジ革命と今回の騒乱によって2度も親露政権の樹立に失敗している。

 もはや通常の方法でウクライナを自らの勢力圏内に留めておくのは難しい、という認識が、今回の軍事行動の背景にあったのではないだろうか。ウクライナとの間に故意に軍事的緊張状態を作り出して固定化してしまえば、集団防衛機構であるNATOとしてはウクライナの加盟を躊躇するだろう。あるいは、クリミア問題を梃子としてキエフの政権に何らかの譲歩を迫ることも可能となる。要するに、グルジア戦争後に南オセチアとアブハジアを「独立」させたのと同じ手法である。


新着記事

»もっと見る